今後、世界の覇権を握る国はどう変わるのか。コロナ禍で中国経済が急回復する一方で、アメリカ経済の舵取りは難航している。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。
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大統領選で混乱するアメリカを尻目に主要国で唯一、急回復しているのが中国だ。中国国家統計局の発表によると、GDP(国内総生産)の実質成長率は2020年第2四半期(4~6月)が前年同期比3.2%増、第3四半期(7~9月)が同4.9%増だった。第1四半期(1~3月)は新型コロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)で同6.8%減と統計開始以来初めてマイナスとなったが、すぐ一気にプラスに転じ、V字回復に向かっているのだ。
これまでアメリカは“再選ファースト”のトランプが新型コロナへの初動対応が遅れたことに対する批判をかわすため、中国への報復関税や投資規制、ファーウェイ(華為技術)包囲網、香港の優遇措置廃止、TikTok規制などの「中国叩き」を加速させてきた。この対中姿勢は、今後も変わらないとみられている。トランプの執拗な攻撃で、中国に対して警戒心を持つ人が70%にも達しているからだ。
それでも中国は、総合的な国力でアメリカに対抗し、「覇権国」を目指していくだろう。
だが、果たして中国は、名実ともに「覇権国家」として世界から認められる国になれるのか?
単に経済力や軍事力などの「力」で他国をねじ伏せ、従わせようとするのは、喧嘩の世界である。覇権国家としてリーダーシップを振るうためには、他国が賛同する理念やディシプリン(規律)がなければならない。
アメリカの場合、それは(トランプの「ミー・ファースト」で地に堕ちるまで)自由と民主主義だった。しかし、そのようなものが中国にあるかと言えば、ない。中国共産党の独裁政権下では、自由や民主主義は邪魔なものであり、国家と国民の多様性はいっさい認められていない。
共産党政権を支えているのは民衆ではなく、「抗日戦争に勝利して中国人民を解放した」という“物語”である。それゆえ、土地はすべて共産党が所有し、私有権を認めていない。それが共産党政権の力の源泉にもなっている。
しかし、実はその物語自体が「真っ赤な嘘」だ。抗日戦争の主体は蒋介石が率いる国民党で、共産党は長江(揚子江)上流に逃げ込み、各地でゲリラ戦を展開していただけである。対日領土問題の処理方法と日本の無条件降伏まで戦うことを宣言した1943年の「カイロ会談」や国際連合設立の原則と具体案を作成した1944年の「ダンバートン=オークス会議」に中国(中華民国)を代表して出席したのも、1945年の「ポツダム宣言」で共同声明に署名したのも蒋介石である。