菅義偉・首相の持論の一つが地方分権である。安倍政権時代にも、ふるさと納税を推進して地域振興にこだわりを見せた。菅政権では、立ち消えになっている道州制が再び動き出すと見られている。『週刊ポスト』(11月16日発売号)では、道州制が導入された場合に活性化する都市と、逆に廃れる街について専門家の予測をもとに詳細にシミュレーションしている。ここでは、本誌とは少し違う視点で道州制が導入された近未来を予測する。
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現在、有力とされているのが全国を11州に分ける案である。北海道、東北、北関東、南関東、北陸、東海、関西、中国、四国、沖縄という11の道州を一つの行政単位にまとめ、それぞれに州都を置いて強い自治権を持たせることが柱になる。その影響は政治、行政、経済など広く及ぶが、忘れてはならないのが教育機関の再編が起きることだ。
少子化が進む日本では、いずれ教育機関は統廃合を避けられなくなる。特に高度な研究・教育を行う機関は各道州のなかで集約されていく可能性が高い。『この国のたたみ方』(新潮新書)の著者で中央大学名誉教授(行政学)の佐々木信夫氏が大胆に予測する。
「今は文科省の方針で横並びに運営されている国立大学は、道州制のもとでは州立大学となり、各道州が統合・再編を進めることになるでしょう。ほとんどが、州都が置かれる可能性が高い都市にある旧7帝大(北海道大学=札幌市、東北大学=仙台市、東京大学=文京区、名古屋大学=名古屋市、京都大学=京都市、大阪大学=大阪市、九州大学=福岡市)が各道州の最高峰の研究機関として『本校』になり、それ以外の州立大学は、特定の学部に特化した『分校』のような形になるのではないでしょうか」
都道府県名を冠した現在の国立大学の多くは、戦前の師範学校をルーツにしており、戦前までは各地で教員の養成を担っていた。現在は学部を増やして総合大学となり、地域の研究機関として独自の立ち位置を確立しているところも多いが、成り立ちを考えれば、少子化が進む時代に、目立つ研究成果がないところは統廃合されるのも当然の流れなのかもしれない。特に地方では、地元の国立大学出身者といえば、都道府県庁や公立学校、地方政界などで活躍する名士も多い。そうした名士たちの母校が「分校」になるというのは、一筋縄ではいかなそうである。
教育機関の統廃合に加えて、佐々木氏はこんな興味深い予測もしている。
「道州になれば、ある程度、経済・社会がその域内で完結するようになる。すると、交通インフラなども州都と域内の都市を結ぶ形で発展していくのではないでしょうか。例えば、現在日本には、ヘリポートを除いて97もの空港がありますが、その9割以上が赤字経営です。道州制になれば、州都にある空港がハブ空港となって国際線も乗り入れる。それ以外の空港は、州都と各都市を結ぶコミューター航空の拠点になっていくでしょう。飛行機による域内移動が活発になれば、赤字空港の有効利用にもなります。
道路でいえば、幹線道路や準幹線道路は、国道、県道などの区別をなくし、みな州道となることも考えられる。州が一体的に管理し、ネットワークと拠点性を高めることで、道路の持つ力を経済面でも生活面でも有効に活かせるようになるのです」