“怪作”と名高い、不倫×SFをテーマにした『あげくの果てのカノン』から2年。7年間忘れられない元カノとなんとしてでもやり直したい男の“ぶっとんだ”恋愛を描いた『往生際の意味を知れ!』(『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載中)が今、熱狂的な人気を得ているのをご存知だろうか。芸能界きっての漫画好きとして知られるフリーアナウンサーの宇垣美里さん(29才)も、同作の沼にハマったひとり。作者の米代恭さん(29才)との特別対談が実現した。
--物語は、主人公・市松海路(いちまつかいろ)の元に、忘れられない元カノ・日下部日和(くさかべひより)から7年ぶりに電話がかかってくるところから始まる。彼女に恋い焦がれ崇拝すらしていた市松に、再会した彼女が要求したのは「出産記録を撮ってほしい」「市松の精子を提供してほしい」というもの。予想だにしないストーリーで支持を集める同作の魅力について、宇垣が熱っぽく語る。
宇垣美里(以下、宇垣):まず、どっちが主人公なのかわからない感じが好きです。市松が主人公で日和がヒロインかと思いきや、そうじゃない。日和は決して市松にとって都合のいい存在ではないんですよ。
とくに日和は1巻を読んだだけだと素性も目的も見えなさすぎて、不気味さがあります。それと同時に伝わってくる必死さがあって、そのギャップにすごく吸引力があるんです。
米代恭(以下、米代):日和をただのファムファタール*1として見せるのは避けたいというのは当初から思っていました。最初はもっとめちゃくちゃな、倫理観のないキャラクターとして描き始めたのですが、突き詰めたら自分が日和に共感できなくなってしまって……。
でも、絶対に既視感のあるキャラクターにはしたくなかったので、バランスに気をつけた結果、今の日和に着地しています。
【*1】ファムファタールには「運命の女」という意味もあるが、ここでは「男を破滅する魔性の女」という意味。
宇垣:2巻で、日和の目的が「母への復讐」だとわかりますよね。復讐のために自分の感情的な部分を殺す、という思い切った選択に驚かされましたが、よく考えるとその気持ちはわからんでもないな、と思いました。「お母さんとの関係が人生に影響する」というところに共感しちゃいます。
スペックに関わらず、娘にとって母親は、どうしても超えられないものだという気がして……。だから“現実の家庭”を商売道具にして、お涙ちょうだいで稼ぐという無茶苦茶な日和のお母さんが出てきてから、ぐっと日和が近くなりましたね。早くこの続きが知りたいです。彼女の地獄の先には何があるのだろう。
米代:日和はお母さんとの関係性において「弱者」で、本人にはそれを覆したいという気持ちがあります。私は、日和を「弱者」であっても「かわいそうな子」にはしたくなくて。自分の意思で自分の行動に責任を取る、ある意味前向きな子でいてほしいなと思いながら描いています。
宇垣:日和は自分をきちんと持っていますよね。私はそういうところが好きです。自立しているヒロインはもちろんかっこいいと思うのですが、私は、自立していないヒロインが現状から抜け出そうとする姿がすごく面白いなって思います。
自立しているしていないにかかわらず、意思や気持ち、感情がはっきりとあるヒロインは魅力的だし、そういうヒロインの物語を追いかけていきたいですね。