「こんな奴を弁護するなんておかしい」「いくら金を積まれても弁護なんてやりたくない」「金のためとはいえ、弁護士も大変だ」──刑事事件の弁護人は、このように“なぜ加害者を弁護するのか”と批判にさらされることがある。
刑事弁護士を描いたマンガ『九条の大罪』(真鍋昌平/週刊ビッグコミックスピリッツ連載中)が話題となっている。その第1話では、飲酒運転でひき逃げ事故を起こした男の弁護人となった主人公の九条間人が、罪を軽くするための指南をするシーンが描かれている。一般的に加害者を弁護することになる刑事弁護士は、“なぜ悪い奴を守るのか”と思われがちだ。今回、そんな「刑事弁護士」について、元東京地検検事であり、銀座高橋法律事務所の代表弁護士・高橋壮志氏に聞いた。
「かつてはオウム真理教による地下鉄サリン事件の裁判の時も、事件を担当した弁護士たちが批判にさらされました。こうした感情は、今に始まったことではありません。しかしながら、一般的な刑事裁判については、法律上、弁護人が必要とされています。検察官の見方が100パーセント正しいわけじゃないですから、反対の立場から主張することは必要です」
なぜ被告人側には、弁護人が必要なのだろうか。
「なぜ刑事事件の被告人に弁護人がつくのかというと、一般的には知られていないようですが、憲法に定められているのです。そして、日本の刑事手続きにおける大原則として『当事者主義』というものがあります。訴訟当事者が主導して証拠調べや事実関係の認定と法律適用、事実と量刑についての主張を尽くし、それを裁判所が判断するという枠組みです。
当事者とは、もちろん被告人と検察官ですが、一方の当事者の被告人はほとんどの場合、法律知識がありません。そのため被告人を弁護するために法律知識を有する弁護人が入り、当事者の対立構造の中で適正な手続きを保障することが必要になります。
だから憲法第37条で『刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる』と定められているのです。そして、私選弁護人に依頼することができなければ、国選弁護人がつきます」(高橋弁護士、以下同)
憲法で定められた手続きとはいえ、重大事件の被告人を担当することになれば批判にさらされ、しかも報酬もあまり高くないとされる刑事弁護は、やりたがらない弁護士もいるのではないか。