来年4月に「70歳就業法」と呼ばれる改正高年齢者雇用安定法が施行される。現在65歳までの社員の雇用延長期間を70歳に引き上げるなどの努力義務を企業に課す法律だ。施行されれば日本社会の伝統だった「定年で退職する」という考え方、定年制度の消滅につながる。
「コロナで生活が苦しいときに、長く働けるのはありがたい」と喜ぶのは大間違いだ。むしろ、この法律は中高年を「60歳以降も稼げる人」と「働きたくても職がない人」に分断することになる。
法改正されたのはコロナの流行前、インバウンド景気などで人手不足が深刻化していた時期だ。政府は「生涯現役社会」を謳って高齢者雇用を推進、企業も高齢者を積極的に雇用していた。
「政府は老後の生活をまかなえるだけの年金を払えない。そこで70歳まで働けるようにするから、高齢者は年金をあてにしないで自分で稼いだ金で生活してくれというようなものです」(社会保険労務士の桐生英美氏)
だが、コロナ後は雇用環境が一変。企業は経営が悪化して社員の休業、雇い止め、リストラを進め、高齢者を雇用し続ける余裕がない。人事ジャーナリスト・溝上憲文氏が指摘する。
「コロナリストラがいよいよ大企業にも及んできた。対象は中高年です。三菱ケミカルは11月4日に50歳以上の管理職と定年退職後に再雇用された社員約2900人を対象にした希望退職者の募集を発表した。高年齢者雇用安定法で60歳以上の再雇用社員だけをリストラするのは難しいが、現役とセットであれば可能。50代の社員は給料が高いし、会社に残れば定年後に再雇用しなければならない。
来年4月には改正高年齢者雇用安定法で70歳まで雇用延長が努力義務になるから、来年3月までに60代前半の再雇用社員と50代社員を一緒に人員整理したいという企業がこれから増えるでしょう」
菅政権がコロナ不況下で「70歳就業法」の施行を強行すれば、生涯現役社会をつくるどころか、逆に中高年の雇用を奪う結果を招くのだ。
※週刊ポスト2020年11月27日・12月4日号