選挙当夜、トランプが大票田であるテキサスとフロリダを取る見込みだ、と報道されていたことから、最終的にはトランプが2016年に民主党から僅差で奪いとった、ペンシルベニアとウィスコンシン、そしてミシガンの行方が勝敗を決すると考えられていた。とくに、ペンシルベニアでの集計には3、4日かかると事前にいわれていたことから、選挙当夜に決着がつくというシナリオには現実味が薄かった。
私は昨年12月、アメリカ大統領選挙を取材するために、ミシガンのランシングに部屋を借りて全米を取材して回ってきた。それと並行して、ミシガン共和党で、戸別訪問をしてトランプへの投票を呼びかけるボランティアとして働いてきた。
なぜ、ミシガンなのか。
それは、トランプが2016年、最小僅差で勝利を収めた州だった。トランプの再選には、ミシガンを死守する必要があった。逆に、民主党候補者が大統領になるには、是が非でもミシガンを奪還する必要があった。2020年の選挙で最重要州になるという読みだった。
なぜ、共和党事務所でボランティアなのか。
それは、2020年の選挙が、トランプの信任投票という意味合いを色濃く帯びると見込んだからだ。そのトランプの選挙を支援する人たちと知り合い、さらにはトランプ支援を求めて戸別訪問をして、たくさんの有権者の声に耳を傾けることで見えてくるものがあるはずだ。何かを深く知りたいのなら、相手の懐深くに潜り込め。これまでの取材で身についた手法である。選挙日前までに、私が訪問したのは1000軒を超えた。
赤い帽子の魔力
ボランティア初日となった3月5日、いきなり熱烈なトランプ応援団に出会った。私がおっかなびっくりドアの呼び鈴を押して回っていると、2匹のセントバーナードと一緒にジョン(59)が出てきた。
「何だって、ミシガン共和党のボランティアだって。そこに座って待っていてくれ」と、玄関先にあったイスを指さす。すぐに戻ってきたジョンが手に持っていたのは、赤い帽子。「President Trump 2020 Keep America Great」と刺繍してある。
「最近、この帽子を20個買って、いろんな人に渡しているんだ。あんたにもやるよ。オレは、共和党員ではなく、無所属だな。今でも、自動車産業で働いているんだ。昔、組合の委員長もやった時には、民主党にも投票した。2008年にはオバマに投票した。けれど、クリスチャンであるオレにとって一番大切な政策は、中絶の是非についてなんだ。中絶はどうしても認められない。トランプは、これまでで最も中絶に反対している大統領だから応援しているんだ。それに息子は今、陸軍に入っているんだよ。トランプは、予算をつけて軍隊を立て直してくれただろう。2016年にもトランプに投票したし、今年も投票するよ」
熱くて、陽気なトランプ支持者だった。