トランプかバイデンかではなく、トランプかトランプ以外か……今回の大統領選は、「トランプ現象」への信仰と抵抗のぶつかり合いだった。今後より激しくなるであろうその「衝突」を、ジャーナリストの横田増生氏は内側から見ていた。1年前にアメリカへ渡り、大統領選について発信してきた彼は、密かにトランプ陣営の選挙ボランティアとして働いていたのだ。横田氏による、衝撃の潜入レポートをお届けする。
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訴訟準備を手伝う
ミシガン州都ランシングで借りているアパートから、共和党のボランティア活動に参加するため、車を走らせたのは選挙当日、11月3日の午後8時前のこと。ラジオが、トランプがフロリダ州を取る見込みである、と伝えているのを聞いて、長い夜になりそうだ、と思った。
目的地は、州議事堂から歩いて5分のところにあるイベント会場。前日、私がメールで登録したのは「Election Day Operation War Room」というボランティア活動。強引に日本語に訳すのなら「選挙当日作業戦争室」とでもなるのか。午前6時半から翌4日の午前零時までの時間を4つの時間帯に区切りボランティアを募集していた。1日3回の食事も支給される。しかし、具体的に何をするのかまでは書いてない。
ボランティアの集まる部屋は、イベント会場の隣にあるホテルの一室にあった。30人ほどが座れそうなスペースに、10人ほどのボランティアがいた。ベスという60代のボランティアの女性が説明してくれた。
「ここでは投票現場で不審な投票行動について、共和党が送りこんだ監視員(poll challenger)から、専用アプリを使って電話を受けるの。その内容を報告レポートに書き込んで、隣室で待機している弁護士に渡して、弁護士が訴訟を起こすなりの手段を講じるのよ。私? 正午過ぎから来ているから、もう帰ろうかと思っているわ」
ボランティアの隣の2部屋に弁護士が待機しているのだ、という。総勢で何人の弁護士が詰めているのかは不明だったが、選挙当日から法廷で戦う気満々である。8時半を過ぎると、そのグループを仕切っている40代の男性がこう言った。
「電話も一段落したようですので、勝利パーティーの会場に移ってください」
ベスと一緒にいた女性が尋ねた。「勝利パーティーって、どんな感じなの」
男性が答えた。「勝った時には天国のような場所だけど、負けたら地獄みたいになるよ」
それはおもしろいと思い、パーティー会場に足を向けた。