日本語は一つの漢字に複数の読みがあるうえに、熟語になると特別な読み方をしたり、読み方によって違う意味になったりするからややこしい。そして言葉は時代とともに変わっていくので、読み方が二つあったり、変更されたりすることもよく起きる。
『週刊ポスト』(11月16日発売号)では、読み方の主流が変わってしまった難読漢字を特集しているが、そこで取り上げている「他人事」「世論」「重用」などと同様に、今まさに主流の読み方が変わろうとしている言葉はたくさんある。ここでは、2つの「存」を紹介しよう。
読者諸氏は、「依存」をなんと読むだろうか? 年配の方なら「いそん」、若い方は「いぞん」と読むのではないか。今のところ、辞書によってもどちらを見出しにするかはまちまちだが、もともとは「いそん」と読んでいたものが、若い世代ほど「いぞん」と濁って発音するので、そろそろそちらも主流になろうとしている言葉である。
NHKは最近まで「いそん」としていたが、2014年2月の放送用語委員会でこれを見直し、現在は「いぞん」と読んでいる。このような変わりつつある言葉は専門家泣かせでもある。世の中の潮流を辞書に反映する難しさを、日本語学者で辞書編纂者を務める飯間浩明氏が語る。
「私の携わる『三省堂国語辞典』では新しい版の準備をしていますが、見出しは『いそん』を『いぞん』に変更しようかと議論しています。辞書の見出しをどうするかというのは、編纂者の単なる主観というわけにはいきません。音声データ、ルビをふってある文章などの用例をひたすら集め、直近ではどういう使われ方をしているか調べます。最近ならYouTubeも活用しますね。
具体的には、2014年のNHKニュースでは『アルコールいぞんしょう(依存症)』と濁って発音していましたが、翌年の『クローズアップ現代』では、国谷裕子キャスターが『石炭へのいそん(依存)が高い』と、従来の濁らない形を使っていました。ちょうど移行期で、両方使われていたんでしょうね。現在ではNHKでも『いぞん』のほうが多いようです」