コロナ危機の長期化は日本社会を「上級」と「下級」へと分断しつつある。中高年は「稼いで老後を乗り切れる層」と「稼ぎたくても職がない層」に二分され、“下級”に転落すると簡単には浮かび上がれないのだ。
コロナリストラの影が忍び寄ってきている──。来年4月には改正高年齢者雇用安定法で70歳まで雇用延長が努力義務になるため、来年3月までに60代前半の再雇用社員と50代社員を一緒に人員整理したいという企業がこれから増えると予想される。
あてにしていた再雇用(雇用延長)の収入がなくなれば生活設計が完全に狂い、蓄えがあるから“上級”だと思っていた人も、“下級”への転落が待ち受けている。
人生100年時代、公的年金とは別に夫婦で2000万円の老後資産が必要──という金融庁の報告書が国民に衝撃を与えたのはほんの1年前。
ちょうどその頃、大手流通グループ社員だったAさん(現在61歳)は定年を迎えて系列のホテルチェーンで再雇用され、1年更新の契約社員として働いていた。
「退職金と貯金で2000万円近い蓄えがあり、オレは大丈夫。70歳まで働けばあとは年金で生活できると考えていました」
ところが、コロナの感染拡大でホテルの経営が大幅に悪化。この春、会社から「契約の更新は難しい」と他の正社員と一緒に退職を求められた。医療事務のアルバイトをしている妻も病院不況で月10万円ほどあった収入が3万円以下に減った。
「いまは失業手当をもらいながらハローワークに通っていますが、仕事は全然見つからない。住宅ローンも5年残っていて、年明けに失業保険が切れると、生活費とローンで貯金を月25万円くらいずつ取り崩す生活になる。このまま職がなければ年金をもらえる65歳までに貯金は半分、70歳くらいで底をつくんじゃないかとそんな計算ばかりしています。夫婦のどちらかが病気や要介護になれば老後破綻でしょうね」
Aさんは諦めたような薄い笑みを浮かべた。
※週刊ポスト2020年11月27日・12月4日号