長引くマスク生活で、「苦しい」「声が聞こえない」「乾燥する」「口臭が気になる」という“マスクにおける4重苦”に悩む人が増えている。この4重苦はいずれも、口呼吸が原因だと池袋大谷クリニック院長で呼吸器内科医の大谷義夫さんは言う。
特に就寝時にいびきをかく人や、舌の位置が上の前歯ではなく、下あご側に落ちたままの人は、普段から口呼吸をしている可能性が高い。
「無意識のうちに口を開けて呼吸してしまう原因はさまざまありますが、顔や舌の筋力の低下が、まずあげられます。筋肉は老化によって衰えますが、昨今はコロナ禍で人と会って話をする機会が減ったことに加え、マスク着用で表情が見えないため、口まわりや舌の筋肉を動かさなくなってしまったことが大きいですね」(大谷さん・以下同)
人との会話は“顔の筋トレ”になっていたというわけだ。コロナ禍ではこの機会が激減し、顔も運動不足になっている。そして、口まわりの筋肉が衰えると口が開いたままの状態になりやすく、その結果、無意識に口呼吸をしてしまう。さらに、顔や舌の筋力の低下は滑舌を悪くするため、話し声が聞き取りづらくもなる。
「呼吸は本来、鼻で行うのが自然です。鼻呼吸の場合、鼻毛などがフィルターとなって、ウイルスや細菌などの異物が体内に入るのを防いでくれる上、粘膜などによって空気が加湿・加温されるため、感染症予防にもなります。
一方の口呼吸では、鼻毛などのようなフィルター機能がない上、外の乾いた冷たい空気が直接体内に入るため、口やのどが乾燥しやすく、ウイルスや細菌が侵入・増殖しやすいんです。せっかくマスクをしていても、口呼吸を続けていては、感染症予防の効果が薄れてしまいます」
ウイルスや細菌などの異物が除去されないままの空気を吸うと、取り込まれてしまった異物が細胞に炎症を引き起こす。炎症が咽頭に生じると急性上気道炎(いわゆる風邪)となり、気管・気管支・肺胞に生じると急性気管支炎や肺炎になる。また、アレルゲンが気管に吸い込まれると喘息を引き起こしてしまう。
さらに口呼吸で口腔内が乾燥し、殺菌作用のある唾液の分泌量が減ると、口腔内細菌が繁殖して虫歯や歯槽膿漏、口臭などの原因にもなる。