新型コロナウイルスの第3波を前に、10月の自殺者数は昨年同時期の4割増になっている。増える自殺防波堤になるのが、全国の「いのちの電話」だ。《あなたはけっして一人ではありません。私たちは、悩み、相談をお持ちのあなたの電話を待っています》。そんな言葉とともに24時間365日、受話器の前に待機する人たちがいる。いつも以上にその存在の重みを感じるいま、聞き手もまた、声にならない悲鳴を上げていた──。
半世紀続くいのちの電話がいま、かつてない危機を迎えている。いのちの電話は、ドイツ人宣教師で上皇后、美智子さまとも親交が深かったルツ・ヘットカンプ女史の主導によって1971年に東京で活動が開始され、現在は全国50の相談センターが活動している。危機を迎えた状況にはヘットカンプさんと旧知の仲だった美智子さまも心を痛められている。
「美智子さまはヘットカンプ女史が来日するとたびたび面会された仲で、いのちの電話についてもよくご存じです。今年10月の美智子さま誕生日の侍従会見では、美智子さまが『いのちの電話 運営ピンチ』との新聞記事を熱心にお読みになり、電話相談の行く末を憂慮されていることが伝えられました」(皇室記者)
ピンチを端的に示すのが、「電話がつながらない」ということだ。長年、若者の生きづらさや自殺について取材を重ねているジャーナリストの渋井哲也さんが指摘する。
「いのちの電話に相談した人からいちばんよくあがるのが、電話がなかなかつながらないということ。孤独感が増し、希死念慮が高まる夜間ほど、つながりにくくなるそうです。助けを求めて電話をかけ続けているのに、返ってくるのは呼び出し音ばかりとなると、相談者の心が折れてしまう心配があります。相談員を増やせる状況になってほしいです」
実際、10年前に7000人だった相談員数は、現在6000人まで減っている。東京では30年前に400人以上いた相談員は250人にまで落ち込んでいる。
「理由の1つは、女性の就業率が高くなり、相談員の大半を占めていた主婦の数が減ったことです。電話を受けられる数が減る一方で、相談が終わって受話器を置けば、もう次が鳴るという状況が続いています。取れた電話の10倍、取れなかった電話があることを考えると心が痛みます」(「東京いのちの電話」事務局長の郡山直さん)