24時間365日、受話器の前に待機する人たちがいる。彼らのもとにかかってくる電話は命を絶つ一歩手前の絶望から発せられるSOS。自殺の防波堤として、悩身を抱える人々が利用する「いのちの電話」。話を聞く相談員の胸の内と、その先にある希望とは──。「いのちの電話」についてリポートする。
そもそも電話をかける相談者はどんな精神状態なのか。
「何度も電話をかけたことがあります」。そう告白するのは、女優の遠野なぎこ(40才)だ。母親からの虐待によるPTSDや摂食障害、強迫性障害に現在も苦しむ彼女は、30代前半の頃、いのちの電話を頻繁に利用していた。
「20代の終わりに家族と縁を切ってから、いっそう孤独感が増し、うつ状態になって死にたくなりました。ですが、周囲には打ち明けられず、頼る人もいない。いのちの電話で悩みを話すことで、どうにか自分の死にたい気持ちを留めることができるんじゃないか──そう、かすかな希望を抱いて電話していました」(遠野)
精神科医の樺沢紫苑さんは「電話をかける人は自殺する一歩手前の心理状態に陥っている人が多い」と言う。
「自殺は、もともとある希死念慮や孤独感に衝動性が加わることで起きますが、衝動は自分を気にかけてくれる存在がおらず孤独が絶望に変わることで生まれやすい。電話は“絶望から救ってほしい”というSOSだといえる」
しかし、電話は何度かけても、一向につながらない。やがて遠野は、全国各地の「いのちの電話」の電話番号を自身の携帯電話に何件も登録していった。そして片っ端からかけていったが、電話がつながることは少なかった。
「運よく電話がつながっても、今度は、言葉が出てこないんです。聞いてほしい気持ちはあっても何があったのか最初から説明するのがしんどいんです。やがて、話すのをあきらめてしまい、『もういいです。ありがとうございます』と泣きながら電話を切ってしまったこともありました」(遠野・以下同)