新型コロナウイルスの影響で岐路に立たされる産業は多いが、エンタメビジネスはその最たる例ではないか。今年4月の緊急事態宣言以降、音楽、演劇業界の公演は軒並み中止となり、夏以降は無観客での開催やオンライン配信に舵を切っている。
6月に行われたサザンオールスターズのオンラインライブでは、税込み3600円の視聴チケットの購入者数は約18万人。複数のデバイスで視聴可能だったため、総視聴者数50万人を集めた。7月には、宝塚歌劇団が入場制限のもと観客を入れての公演を再開するのと同時に、ライブ配信を始めた。さらに8月には、アイドルグループ・ももいろクローバーZのライブ「ももクロ夏のバカ騒ぎ2020」が無観客開催、オンライン配信で行われた。10月には、白石麻衣が乃木坂46の卒業コンサートを無観客で行い、推定68万人が視聴したとされる。
そんな流れのなか開催されたのが、ジャニーズの人気グループ・嵐の『アラフェス 2020 at 国立競技場』(11月3日)だ。当初予定されていた国立競技場の会場はそのままで、無観客による配信ライブが行われた。
正確な数字は公表されていないが、一部報道によると、今回のアラフェスでは80億〜100億円に近い売り上げがあったのではないかとされている。この公演は二部構成で、一部はファンクラブ会員限定。料金は、ファンクラブ会員が4800円、一般5800円などとなっていた。嵐のファンクラブの継続会員は軽く100万人を超えているとされるから、100万人でざっと50億円、200万人動員で100億円ということになる。
もちろん、コストもそれなりにかかっているはずだが、電通、マッキンゼー、ウォルト・ディズニー・ジャパンなどを経て、現在グロービス経営大学院(マーケティング)やフェリス女学院大学音楽学部で教員を務めるマーケターで声楽家の武井涼子氏は「通常のコンサートと大きく変えずにできたはずでは」と指摘する。
「例えばアコースティックな音だけを使っているクラシックなどでオンライン公演をするとなると映像や音響の設備やスタッフを新たに加える必要があるため、配信には通常のコンサート以上に多額のコストがかかります。ただ、ジャニーズのアイドルのコンサートはもともと音響機材を利用していますし、Blu-layやDVDを発売しているので商業用の映像も撮っているでしょうから、いつもとほとんど変える必要はなかったのではないでしょうか」(武井氏)