「食う寝るところに住むところ」といえば、落語『寿限無』も使われる人間の幸せな生活に必要なもののひとつ。何十年もかけて返済する住宅ローンを組んででも、住むところを確保したいものなのだろう。新型コロナウイルスの感染拡大が報じられ始めた春には、住宅ローンの返済猶予に金融機関も柔軟に対応するとあわせて知らされたものだ。それで一時的にしのぐことはできたようだが、夏までは持ちこたえていた人たちも「住むところ」を失いかねない状況へと追い込まれている。ライターの森鷹久氏が、終の棲家だと決意して手に入れた住宅に振り回される人たちについてレポートする。
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全国で1日の感染者数が2000人を超え、いよいよコロナウイルス「第3波」が日本列島を襲っている。夏から秋にかけて収束に向かっているかとも思えていただけに、ショックを受けていると言う人も少なくないだろう。「3波」を受けて、大きな決断をせざるを得なくなっていると言う人も。
「夏のボーナスも5割カットで冬のボーナスはゼロ。住宅ローンが完全に払えなくなってしまいました」
こう話すのは、首都圏の戸建て住宅に住む飲食店チェーン勤務・森山卓さん(仮名・30代)。自宅は数年前に3500万円ほどで購入し、月々のローンの支払いは約8万円。年2回のボーナス時には、追加で10万円強を支払っていたというが……。
「月30万円の給与がコロナで3分の2になったのが夏前。生活がカツカツだったところに、ボーナス払いでとどめが刺された感じですね。夏終わりに、ローンを払うために車も売りました。第3波が来たということで、家を売る準備も進めましたが、購入時より1000万円近く安い。行くも引くも地獄です」(森山さん)
コロナウイルスによる影響により、住宅ローンの支払いが困難になった人々に向けて、金融庁は積極的に「相談」するよう呼びかけ、同時に金融機関には「猶予」などの配慮をするよう求めている。もちろん森山さんもそうした窓口へ電話をしたこともあった。ただそれらは「いずれ良くなる」ことが前提にあった。すでに金策が尽き、第3波で先行きも真っ暗、半年後に支払いを再開できるはずがないと思うと、もはや自宅を所有しておく、という判断ができなくなるのは、当たり前かもしれない。