新型コロナウイルスへの対策や心掛けは不可欠だが、過度な怯えは別の弊害をもたらす。医療現場では、コロナの影響による“もう一つの病”が問題になっていた。
高齢者を中心に、コロナ感染に怯え、自宅に閉じこもる生活を送る人が増えているが、それによって身体や認知の機能が衰え、介護の一歩手前の「フレイル(虚弱)」に陥るリスクが高まることがわかってきた。
11月になって全国各紙で報じられた東京大学高齢社会総合研究機構の調査によると、東京・西東京市の65歳以上の約300人にコロナ流行前後の生活変化を聞き取った結果、4割以上の高齢者で外出機会が激減しており、機構は「この状態が続くと来年以降に『コロナフレイル』が顕在化する恐れがある」と警鐘を鳴らしている。
フレイルとはどんな状態なのか。「フレイル外来」を開設するふくろうクリニック等々力の山口潔院長が解説する。
「従来は“老化現象”と捉えられていたが、フレイルは『健康と要介護の“間”の状態』を指します。放置すると寝たきり、認知症など重篤な症状を招く恐れがあるため、早めの医療介入が重要視されています」
東京都健康長寿医療センター研究部長の北村明彦氏は、「すでに医療現場ではコロナフレイルが広がる兆候が見られている」と指摘する。
「感染を恐れ、受診控えをしていた患者を2か月ぶりに診察すると身体機能が衰えていたといったケースがあり、地域の民生委員からも久しぶりに会った高齢者の認知機能が衰えていたといった報告が上がっています」
心の衰えのほうが怖い
フレイルは身体的な衰えだけを意味するのではない。コロナの影響はむしろ“心の衰え”に繋がりやすい。
「フレイルには筋肉量が低下して骨折しやすくなったり、これまでの運動が困難になったりする身体的フレイル、意欲や認知機能が低下する心理的フレイル、一人暮らしで閉じこもり、孤立に陥る社会的フレイルがあります。
『外出控え』というと散歩や買い物に出かけずに筋肉が衰えることをイメージしますが、もっと重要なのは、人との交流や会話が減ることです。たとえば健康のために週に何度か散歩していたとしても、そこで誰とも会話していなければ、身体機能はキープできても心理的フレイルにつながる。コロナによって人と会うことが憚られたり、趣味やイベントが中止になったりしているので、高齢者のフレイルが進行していく危険性があります」(前出・山口氏)