水分補給は、喉や体の乾きを潤すだけのものではない。ウイルスを不活性化させるために役立つという声が医療業界から聞こえ始めている。新型コロナの感染予防対策の新たなメソッドとは──。
1日の国内感染者数が2000人を超える日もあるいま、新型コロナウイルスとの接触を完全に避けるのは難しい状況といえるかもしれない。手や体についたウイルスは、石鹸で洗ったり、アルコールで消毒をすることで除去できるが、鼻や口などの粘膜についた場合はどうしたらいいのか。
「ウイルスが粘膜についたら、すぐに感染すると思うかもしれませんが、実際は、感染するまでに“ロスタイム”があるとみられています」
こう解説するのは千葉科学大学危機管理学部教授で医学博士の黒木尚長さんだ。新型コロナの感染経路は主に2つ。感染者の唾液や体液に直接触れたり、それらが付着したものを触った後、自分の粘膜を触ることで起こる「接触感染」と、感染者がしゃべったりくしゃみをしたときの飛沫を鼻や口から吸い込んだり、その飛沫が目や口の粘膜に付着して起こる「飛沫感染」がある。どちらの場合もウイルスが最終的に粘膜に付着することで感染する。
「新型コロナは粘膜の表面にある、ACE2受容体という器官と結合することで人間の細胞内に侵入し、増殖することで感染します。粘膜に付着してから細胞に侵入するまでの時間は、インフルエンザウイルスで20分程度。多少のずれはあるにしても、新型コロナでも同様のことがいえると思います」(黒木さん)
逆に言えば、粘膜に付着したウイルスが細胞に侵入する前の“ロスタイム”のうちに除去してしまえば、感染を防ぐことができる。感染を引き起こすACE2受容体は、鼻などの粘膜よりも、口の中の粘膜、特に舌の表面に多く存在するという。そのため、水やお茶などで口をゆすぐことで、効果的に感染を予防できると、黒木さんは分析する。
「食事中などマスクを外すタイミングなら20分に1回、マスクをつけている間であれば1時間に1回など、定期的に口の中全体に水分を行き渡らせ、表面を洗い流しましょう。可能であれば、勢いよくクチュクチュしてください。吐き出すことが難しければ、そのまま飲み込んでも問題ありませんよ」(黒木さん)
クチュクチュしてゴックン──これで感染を防げるというのだ。ウイルスを飲み込んでもいいとは意外だが、新型コロナの場合、胃や腸で増殖したり、胃の粘膜から感染することはないと考えられている。
「新型コロナはエンベロープという膜で覆われています。インフルエンザも同様ですが、エンベロープで覆われているウイルスは酸性に弱く、pH5ほどの環境で不活性化する。このpHは数字が低いほど酸性が強くなる。胃液はもっと酸性が強いpH4なので、胃の中に入ればウイルスは感染力を失います。ノロウイルスのように胃を通過して小腸で増殖するウイルスもありますが、それはエンベロープを持っておらず、酸に強いウイルスだからです」(黒木さん)