《春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫立ちたる雲の細くたなびきたる。夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多くとびちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光て行くもをかし。雨など降るもをかし》
いまから1000年前、清少納言が『枕草子』で綴った日本の美しい四季。元号が令和となった現在も、変わらず春の夜明けは美しく、蛍がぼんやりと光って飛ぶ夏の夜は幽玄だ。続けて清少納言は秋の夕暮れについて、空を飛ぶ烏や雁の姿、虫の鳴く音が素晴らしいと絶賛した。
古来、日本人は自然と調和しながら活動する生物の姿を、季節の移り変わりと重ね合わせて愛でてきた。だが、平安時代から脈々と受け継がれてきた「日本の文化」がいま、存続の危機を迎えようとしている。
「こんなことをしたら、四季の移り変わりを感じられなくなってしまう」
テレビでおなじみの気象予報士・森田正光さんがそう危惧するのは、気象庁が発表した「生物季節観測の見直し」に関するニュースだ。生物季節観測とは、動植物の様子を定点的に確認して、季節の進み具合や長期的な気候変動などを把握する気象庁が行っている観測のこと。
例えば、「ホーホケキョ」といううぐいすの初鳴きや桜の開花を観測した日は、春の訪れを示すものとして記録されてきた。この観測はアメリカのスミソニアン研究所の方法に倣って1953年から行われ、現在はアブラゼミやうぐいすの初鳴きなどを観測する「動物季節観測」(23種)と、桜や梅の開花などを観測する「植物季節観測」(34種)の2種類がある。
観測データは総合的な気象状況の推移を把握することに用いられるほか、生活情報として新聞やテレビで利用されている。長年の慣例に異変が生じたのは11月10日。気象庁が、2021年から「動物」を全廃して、桜や梅など6種類の「植物」のみ観測するとの「大リストラ」を明らかにしたのだ。
「見直しそのものは仕方のないことですが、23種類ある動物観測をすべて廃止することには違和感がある。植物も6種類しか残らず、57種から9種への大削減です。季節観測の目的は、動物や植物の定点観測から、自然や環境の変化や人間の営みとの関係を読み取ること。こうした試みは、温度計や湿度計など観測器では測れない貴重なもののはずです」(森田さん)