4年に一度のアメリカ大統領選挙のたびに、“分かりづらい”と感じる人も多いのではないだろうか。全体の得票数が多くても勝利するとは限らないなど、独特の仕組みとなっているのだ。2020年の米大統領選挙についても、ジョー・バイデン氏が新大統領に決まったと報じられているものの、厳密にはすべての選挙結果が出たわけではない。そんなアメリカ大統領選挙について、経営コンサルタントの大前研一氏が、改革を提言する。
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アメリカで大統領選挙の勝者を州単位の選挙人獲得数ではなく、全米の得票総数で決める「全国一般投票州際協定」加入の動きが広がっている。
時事通信(11月15日付)によると、同協定に加入した州は、大統領選で州内の集計結果にかかわらず、全米の得票総数トップの候補がその州に割り当てられた選挙人を獲得する。これまでに全米50州のうち15州と首都ワシントンが賛同し、加入州の選挙人の合計は196人に達しているが、協定が発効するのは加盟州の選挙人の合計が選挙人(538人)の過半数にあたる270人に達してからだという。さらに加入州が増えて協定が発効すれば、全米の得票総数でトップの候補者が自動的に選挙人の過半数を得ることになり、選挙人制度は実質的な意味を失うのだ。
この選挙制度改革に私は大賛成だ。もともと私は、アメリカ大統領選は明らかに時代遅れで欠陥がある選挙人制度を廃止して得票総数が多い候補者を勝ちとするシンプルな選挙制度に変えるべきだ、と主張してきた。それがようやく現実味を帯びてきたわけである。
ならば、この動きをいっそう加速して協定発効を後押しするために、ジョー・バイデン新大統領は来年1月20日の就任演説で「わが国の大統領選のシステムには極めて重大な欠陥がある。これを直さなければ民主主義のリーダーとは言えない」と訴え、選挙人獲得数から得票総数への選挙制度改革を最優先課題として打ち出すべきだと思う。
なぜなら、毎回、大統領選の直後は改革機運が芽生えるものの、選挙人制度は憲法に規定されていて修正が非常に難しいため、しばらくすると関心が薄れてしまうからだ。
しかし、就任時の年齢が78歳で歴代最高齢のバイデン新大統領は再選の可能性が低いだろうし、ドナルド・トランプ大統領に勝利したことで「彼の役目は終わった」とも言われているから、再選出馬しないことを担保に「アメリカが世界の物笑いになっている大統領選の選挙制度を私が改革する」と宣言すれば、国民も連邦議会も納得するのではないか。逆に言うと、この機を逃したら選挙制度改革は当分できないと思う。