もう一度、あのマウンドに
だが、すぐにクビとはならず、プロ野球人生を続けられるだけ彼らは幸せかも知れない。球界に居場所を失った選手が、わずかな可能性に賭けて挑むのが12球団合同トライアウトだ。
「もう一度、あのマウンドに立ちたい」
仙台育英高時代の仲間にそう漏らしているのは楽天の由規だ。2007年の高校生ドラフトで1位入団したヤクルトでは、2010年に日本人初の161キロをマーク。ところが右肩痛に襲われ、15年シーズンをもって戦力外に。翌年に育成から支配下に復帰し1786日ぶりの勝利を挙げたものの、2018年オフに戦力外。故郷・宮城の楽天に育成で拾われ、2019年シーズン終盤に再び支配下登録を勝ち取った。だが、今オフに三度目の戦力外に。今年のトライアウト会場(非公表)は思い出の地。そこで再起を誓う。
引退を決断し、コーチとして所属球団に残るベテランがいる一方で、かつて広島の選手会長を務めた35歳の小窪哲也は、球団から新たな職場も用意されながら固辞。他球団からの誘いはないが、トライアウトは受けず、声がかからなければ潔く引退するつもりだ。
「やりきっていない。それだけが理由です。ただ独立リーグに行っても、年齢的に(NPBには)戻れないでしょう。だからNPB以外の道は考えていません」
今オフに戦力外になった“大物”といえば、阪神の福留孝介と能見篤史、ソフトバンクの内川聖一だ。内川はヤクルト入りが濃厚とされ、能見はオリックスがコーチ兼任で獲得を目指すという。残された球界最年長の福留は果たして――。いずれにせよ、再就職活動が活発となるのは、12月7日に開催されるトライアウトを終え、交渉が解禁されてからだ。
取材・文/柳川悠二
※週刊ポスト2020年12月18日号