バイデン政権の発足に向け、アメリカはようやく通常の準備期間に入った。トランプ大統領は依然として選挙結果に納得していないが、各州の裁判所も司法省も「選挙で不正があった」というトランプ氏の主張を明確に否定しており、もはや流れは変わらない。世論を味方につけたいトランプ氏は、バイデン氏が大統領になれば中国の脅威に対抗できないと訴えているが、果たしてそれは本当なのか。バイデン氏のファミリーが中国ビジネスで財を成したことは事実である。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏は、アメリカと中国の深く長いビジネスのつながりを指摘する。
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AP通信は、トランプ政権の国家情報長官であるジョン・ラトクリフ氏の発言を報じている。「中国は第二次世界大戦以降、アメリカと自由世界に最大の脅威を与えている。中国政府は、経済的、軍事的、技術的にアメリカと世界を支配するつもりである。経済スパイのやり口は『強盗、複製、置き換え』である。中国は、アメリカ企業の知的財産を奪い、技術を複製し、世界市場でアメリカ企業に取って代わろうとしている」と述べた。
もちろん、この発言に対して中国政府は反発している。トランプ政権は、大統領選挙運動中に反中レトリックを強化してきた。ファミリー・ビジネスで中国と関係が深いバイデン氏を攻撃する目的だったが、バイデン氏は中国に関して、「国際貿易ルールを遵守していない。中国企業に不公平な補助金を与え、アメリカの技術革新を盗んでいる」と述べて、中国寄りであるとの批判をかわそうとしている。
大統領選挙の副産物のひとつは、アメリカ国内に広がった反中ムードである。来年1月に発足するバイデン政権は、中国と敵対することを求められてスタートを切ることになる。筆者の住むニューヨークには57万人の中国人が住んでいるが、アメリカ人も日本人も中国人も、特に憎しみ合って暮らしているわけではない。正直に言うと、面倒な対立が起きたという気持ちでニュースを見ている。
しかし、アメリカと中国の経済的な対立は、起きるべくして起きたとも言える。1980年代なかば、筆者がまだビジネススクールを卒業し、起業したばかりの頃の昔話である。仲の良かった金融コンサルティング会社を経営するJ氏から招待状が届いた。J氏が中国の大手銀行のアメリカ本社社長に就任したので、その戦略プレゼンテーションに出席してほしいという内容だった。出席してみると、そこで説明されたのは、AT&T、IBMなどの大企業はすでに中国に進出し、光ファイバー敷設などの巨大インフラ投資を進めており、この市場は確実に成長するから投資をしてほしいという主旨だった。
筆者は中国市場の成長については非常に有望だと思ったが、共産主義国家とのビジネスには疑問も感じたので率直に質問した。「その計画で設立された合弁業が中国政府によって国有化されたらどうなるか」と問うと、J氏はあいまいな答えしかしなかった。それで筆者は自分のクライアントに投資を勧める気持ちを失ってしまった。要するに、参加しているアメリカ企業もそれはわかっていて、中国の発展を初期段階で手助けし、その間に利益を確保して、そのあとに国有化されてもいいという考えだったのである。