動植物の様子を観測して、季節の進み具合や気候変動を把握する気象庁の調査「生物季節観測」が見直される。2021年から「動物」を観測対象から除外し、桜や梅など6種類の植物のみを観測することとなるのだ。
ただでさえ、地球温暖化などの影響で日本の四季が変容しているというのに、動植物の観測をしなくなったなら、余計に四季を感じられなくなるのではないか──そんな心配の声も聞こえてくる。
四季を愛でる日本人は、美しい季節の変化を前提とした文化を作りあげてきた。俳句もその1つだ。
《今日何も彼もなにもかも春らしく》
《初蝶を追ふまなざしに加はりぬ》
《空といふ自由鶴舞ひやまざるは》
これらを詠んだのは、稲畑汀子さん。高浜虚子の孫で8才から俳句を始め、俳句雑誌『ホトトギス』の名誉主宰を務める俳人だ。
虚子直々の教えを受けた稲畑さんは、「俳句は季節を詠む歌です」と語る。
「いまは昔と比べてずいぶん季節の在り方が変わりました。しかし一年を通じて考えたとき、春夏秋冬の四季があることは俳句にとって欠かせない大事な要素です。四季があるから俳句が育ったともいえます」
春夏秋冬を肌身で感じ、俳句として書き留め、後世の人々がそれを読む。連綿と続く営みが文化を作ってきた。
「詠まれた俳句は歳時記として、春夏秋冬を整理したかたちで掲載されます。折々の季節が俳句として残されて、それを読むことでその年の季節を感じることができる。そうした営みで日本人の感受性が養われました」(稲畑さん)
季節を感じることは、子供の成長にも大きく影響する。幼児・小学生教育の第一人者である教育評論家の石川幸夫さんが語る。
「四季折々のにおいや温度、湿度などを肌で感じて育つことで、子供は自然の中で生かされていることに気がつきます。例えば、葉の色づきや落ち葉と接するだけでも五感を通して自然の営みの不思議さを体験し、自分もその一部であることを体感できる」
石川さんの住む地域では、毎年うぐいすが「ホーホケキョ」と鳴く。地域の子供たちは、そんなうぐいすを「春告鳥」と呼ぶ。
「自然の生物と接することで、子供は想像力や好奇心を身につけます。さらに『今日は暑いね』『うぐいすが鳴いてるよ』といった季節から出る言葉でコミュニケーションをとることにより、表現力や思考力が育まれ、その子オリジナルの知性や感性が生まれます。こうした能力は知識を詰め込んで一朝一夕に身につけられるものではなく、四季の中でしか学べないものなのです」(石川さん)