そして、ジョージア州といえば、2つの名作映画を思い出さずにはいられない。
ひとつはもちろん『風と共に去りぬ』(1939年)である。ジョージア州を舞台に、ヴィヴィアン・リー演じるスカーレット・オハラの半生を描いた壮大な作品で、世界中で大ヒットを記録した。オハラの父はアイルランド系移民で、母は南部のフランス系名家の出身という設定だ。複雑なオリジンが入り乱れるジョージア州らしいが、それ以上にこの作品は、奴隷制や黒人差別を肯定しているとして、たびたび論争を起こしてきた。大統領選挙さなかに起きたBLM(黒人の命は大切)運動の影響で、一部の動画サービスでは、同作品の配信を一時停止したほど、人種差別の象徴的な位置づけでもある。
もうひとつの作品は『ドライビング Miss デイジー』(1989年)。同じくジョージア州が舞台で、ユダヤ系の老婦人、デイジー・ワサンと黒人運転手ホーク・コバーンの交流を描いたハートウォーミング・ストーリーである。しかし、作品の中ではデイジーもホークも人種差別、民族差別に晒される。デイジーがマーチン・ルーサー・キング牧師の夕食会に出かけ、「善意の人たちによる自覚のない差別」の話を聞くシーンも見どころだ。
2作品はアカデミー賞で9部門と4部門を受賞した名作であり、公開にはちょうど半世紀の差がある。その間に社会常識もジョージア州も大きく変わったが、根強く残る差別と貧困による相克は変わらず続いてきたことがわかる。トランプ旋風が再びこの地で対立のマグマをかき回してしまったことは間違いない。1月の決選投票で、差別と対立が風と共に去ることになるのか、それとも再び南北戦争のようにアメリカを分断してしまうのか、引き続き注視したい。