1月5日に行われるジョージア州の上院決選投票は、トランプ大統領にとっては「選挙結果をひっくり返す最後のチャンス」に見えているのかもしれない。共和党候補を応援するという名目で12月5日にジョージア入りしたものの、口にしたのは「選挙は不正だ」という決まり文句ばかり。ついには共和党員の州知事にまで「恥を知れ」と悪口雑言を吐いた。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏は、ジョージア州という場所でこの「最後の遠吠え」を聞くことの意味を指摘する。
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ジョージア州入りしたトランプ氏は、相変わらず大統領選挙を八百長だと決めつけ、結果は無効だ、自分が勝利したと繰り返した。もちろん、なんの証拠も示していないし、共和党の地盤であったジョージア州でも、知事も州政府もバイデン氏の勝利を正式に公表している。しかし、熱狂的なトランパーたちが大統領を迎え、そうした支持者から選挙後に集めた献金が200億円を突破したトランプ氏は意気揚々の様子だった。
ただし、地元共和党は眉をしかめている。決選投票を控える2人の候補は、トランプ氏の「応援」によって窮地に立たされたからだ。ジョージア州の共和党支持者の間でも、大統領選挙の結果については意見が二分している。いまだトランプ氏の勝利を信じるトランパーが多くいる一方で、トランプ氏らの行動をみっともないと感じている共和党員も少なくないのである。決選投票の2候補は、一発の弾丸で、その2つの共和党支持層を撃ち落とさなければならない難題を抱えてしまったのである。アメリカを真っ二つに分断したトランプ流の政治が、今度は共和党を親トランプと反トランプに割っている。
トランプ氏が大いに吠えた翌日、決選投票のうちの1議席を争う共和党のケリー・ロフラー候補と民主党のラファエル・ウォーノック候補のテレビ討論会が開かれた。両者の主張は11月の本選挙の時と変わらないし、ロフラー氏がバイデン氏の勝利を認めるか明言できなかったのも上記の理由から予想通りだったが、それとは別に、討論の様子は今回の選挙の構図とトランプ時代のアメリカをまざまざと見せつけるものだった。黒人牧師で、故マーチン・ルーサー・キング氏と同じ教会に勤めるウォーノック氏と、ビジネスで成功し、美しいブロンドの白人女性であるロフラー氏の論戦は、貧困層と富豪、マイノリティと白人の対比を思い知らせるのに十分だった。人種・民族構成が複雑でアメリカの縮図ともいえるジョージア州が、今回の大統領選挙で28年ぶりに「赤い州(共和党支持)」から「青い州(民主党支持)」に変わったことは、時代の趨勢であるのか、それとも一過性の出来事なのか、この決選投票で占うこともできるだろう。
ジョージア州はジミー・カーター大統領(民主党)を生んだ土地でもある。農夫と看護師を両親に持ち、海軍で潜水艦乗りになり、退役後は貧困に苦しみながらピーナツ農園で成功した。後に上院議員、州知事を経て大統領にまで上り詰めるが、彼の人生には、ジョージアの土地柄がぎっしり詰まっている。