嗅覚や味覚の異常、精神面への影響、抜け毛──新型コロナウイルス感染症には様々な“後遺症”が報告されている。なぜ新型コロナの後遺症は、全身のいたるところで発症するのか。まず指摘されるのは、ウイルスの「侵入経路」の問題だ。
口や鼻などから体内に入った新型コロナは、人間の細胞の表面にある「ACE2」と呼ばれる小さな突起に付着して、細胞内に侵入する。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんが指摘する。
「ACE2のある細胞は、全身に分布しているため、全身症状が生じやすい。例えば、脳のバリア機能を担う細胞のACE2から、バリアを壊してウイルスが脳内に侵入してブレイン・フォグを引き起こすと考えられます。血管の細胞にウイルスが侵入した場合は、壊れた血管の修復が遅れて栄養や酸素がうまく運搬されず、症状が長引く可能性があります」
防御反応が後遺症を引き起こすとの指摘もある。日本呼吸器学会理事長の横山彰仁さんが言う。
「ウイルスが体内に侵入すると、異物を排除するための免疫機能が作動します。その際に免疫が暴走して、正常な細胞まで攻撃することを『サイトカインストーム』と呼びます。免疫の暴走が肺で生じると、強い炎症を起こして肺の中が真っ白になり、それが治る過程で線維化して症状を長引かせると考えられます」
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんはサイトカインストームが肺だけでなく、全身の後遺症を引き起こすという。
「ウイルスに対する防御反応が強すぎて、自分の体がダメージを受けてしまう。腎臓と脳など細い血管が集中する臓器ほど影響を受けやすいんです」
スペインの研究チームは、「亜鉛」の不足が新型コロナで死亡するリスクを高めるという研究結果を10月に発表した。
「亜鉛は細胞の修復に重要な物質であり、亜鉛が不足すると壊れた細胞がなかなか治らず、重症化したり死亡リスクが上がる可能性があります」(一石さん)
ちなみに亜鉛はかき、赤身肉、鶏肉、わかめや昆布などに豊富に含まれる。普段あまり摂取しない人は意識的に食卓に並べてもいいだろう。
注意すべきは、診断の場で後遺症が見逃されることだ。100人ほどの新型コロナ後遺症患者の治療を続ける、新中野耳鼻咽喉科クリニック院長の陣内賢さんはこう警鐘を鳴らす。
「最近は後遺症についても知られてきていますが、いまだにこれらの症状を心因性のものと診断する医療機関があります。早い段階で適切な処置をしないと、後遺症が長引く恐れがあります」
陣内さんは後遺症を疑われる患者を診察する際、まず食事内容に注意を払う。
「最初に食事内容を聞き、免疫機能を落ち着かせる処方をします。例えば、小麦や乳製品をなるべく控えてもらい、化学物質などの刺激物も極力減らしていく。その上で漢方薬を処方します」(陣内さん)