【著者に訊け】
三浦しをんさん/『マナーはいらない 小説の書きかた講座』/集英社/1600円
【本の内容】
アミューズブッシュ(推敲、枚数感覚)、オードブル(短編の構成、人称)から、コーヒーと小菓子(お題、短編と長編)、食後酒(プロデビュー後)についてまで全24皿(!)の書き方講座。〈げふり……。みなさま胸焼けしていませんか? やはり二十四皿は過剰接待(?)だったか。すみません〉と綴るあとがきまで、フレンチの肘張った料理というより、三浦さんの手作り料理をひとり味わったような幸福な読後感が待っている。何度も笑って何度も膝を打つこと間違いなし。
自分はこれまで、どうやって小説を書いてきたのだろう?。本書は三浦しをんさんが、そんな問いを自らにぶつけながら書いた一冊だ。きっかけは「コバルト短編小説新人賞」の選考委員を14年にわたって続けたこと。隔月ごとに選考会がある同賞の選考で、膨大な量の応募作を読んできた。だが、「そのなかで、もう少しここが上手に描けていたら」と思う瞬間が多かったのだという。
「近年、応募作のレベルは高くなっていて、面白い作品が本当に多いんです。だからこそ、気になる点がある。もう少しだけ小説のコツを知っていれば、がぜん『書きたいこと』が書けるようになるのに──と」
例えば、物語の人称をどう選ぶか、場面展開で気を付けたいこと、推敲の仕方やタイトルの付け方、さらには「一行アキ」にはどんな効果があるか……。三浦さんはときに自作を例に出しながら、自身の小説の技術を披露していく。そのなかで、繰り返し込めたメッセージは、「小説の“型”を身に付ければ、書くことがより『自由』になれる」というものだ。
「小説にとって書き手の感性は何より大事なものです。でも──」と彼女は言う。
「自由に書くことと感性のままにがむしゃらに書くことは違う。感性はいずれ鈍っていく有限の煌めきです。その有限の煌めきを無駄遣いすると、いつか疲れて書けなくなってしまうでしょう。だからこそ、自分の感性をしっかり活かすために、小説の技術、戦略を知る姿勢が大切だと思うのです」