いまや新型コロナウイルス対策は日常の予防や警戒だけでなく「感染したらどうするか」を考える段階に入った。だが、肝心の治療の中身はほとんど知られていない。どんな治療薬があり、どんな効果やリスクがあるのか。それを誰よりも知っているのは現役の医師だ。治療薬と承認が間近のワクチンについて、医師たちは「自分なら」どれを選ぶか──話を聞いた。
厚生労働省『新型コロナウイルス感染症診療の手引き・第3版』によると、新型コロナ発生から約1年が経った現在、日本で使われている治療薬は8種類ある。うち国内承認を得ているのは、エボラ出血熱の治療薬「レムデシビル」と抗炎症ステロイド薬「デキサメタゾン」の2種類だけだ。
一方、多くの医師がコロナ治療の“大本命”として挙げたのが、米国のトランプ大統領が罹患した際に投与された「抗体カクテル」だ。
これはコロナから回復した患者の血液に含まれるたんぱく質の抗体を活用して作られる薬で、トランプ氏に投与されたのは2つの抗体を組み合わせているので「カクテル」と呼ばれる。
74歳のトランプ氏の症状を改善させ、入院からたった3日で退院したことで注目されたが、抗体医薬自体は、日本でもがんやリウマチなど免疫疾患の治療薬として60種類以上が承認されている。大阪健康安全基盤研究所の奥野良信理事長(ウイルス学)が解説する。
「新型コロナ治療薬の多くは他の病気向けの転用ですが、抗体医薬は新型コロナに特化して新たに作られた薬です。抗体はもともと人が持っているたんぱく質なので副作用はほとんどなく、ウイルスが肺などの細胞に感染するのを妨ぐ働きがある。トランプ大統領はツイッターに投稿した動画で、『抗体カクテルを投与されたらすぐに気分が良くなった』と語っており、即効性が期待できる。私も自分が感染したら抗体カクテルの投与を第一に考えます」
米国では11月、この抗体カクテルを含む2社の抗体医薬が緊急使用許可が出され、実用化段階に入った。対象となる患者には無料で投与されるという。
「抗体医薬がコロナ治療の本命になるであろうことは医療関係者なら誰でも知っていました。日本ではトランプ大統領が使うまで一般に知られていなかったことのほうが不思議です」(同前)