2018年、群馬県前橋市で85歳(当時)の男性が女子高生2人を次々とはね、死傷させた事故は、高齢ドライバーを抱える家族の苦悩を浮き彫りにした。同居する長男家族から再三、免許返納を求められても男性は拒否し、事故の4か月前に免許を更新していた。
65歳以上のドライバーが起こす交通事故の割合は年々増えている。2018年には全事故の22%に達した。
前述の事件や2019年に起きた池袋の暴走事故により、高齢者の免許返納がクローズアップされているが、自主返納をした75歳以上ドライバーは4.9%に留まっている(2018年警察庁運転免許統計)。
老親が大きな事故を起こす前に対処したい。まずは、高齢者がなぜ交通事故を起こしやすいのかをみていく。
「加齢による脳の変化が影響する」と指摘するのは、脳神経外科医の朴啓彰氏(高知検診クリニック脳ドックセンター長・高知工科大学客員教授)だ。
「脳は20代をピークに毎年2~3mlずつ縮み、運転能力に影響を与えます。短期的な記憶を司る『海馬』が萎縮すると行き先がわからなくなり、認知や判断を制御する『前頭葉』や『側頭葉』、空間認知や位置情報を制御する『頭頂葉』が萎縮すると、飲酒運転のような状態になります」
加齢による血流障害の一種である「白質病変」の影響も大きい。
「白質病変が進行すると、脳内の毛細血管が壊死して末端まで血液を運べず、脳細胞や神経線維にまで及ぶと脳のネットワークが破壊されます」(前出・朴氏)
車の運転は、信号や標識を確認しながらハンドルなどを操作する。また、前方からの飛び出しなど、道路状況を瞬時に見極める高度な注意力や複雑な処理能力(遂行機能)が求められる。
「運転する際には、脳の特定の部位ではなく、脳全体を駆使します。しかし、白質病変が脳のネットワークを破壊すると、運転時にとっさの判断や反応ができなくなります」(前出・朴氏)
その結果、「判断・操作ミス」による交通事故を起こしやすくなる。