音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、春風亭一之輔の独演会で演者が登場人物のアドリブに本気で笑う「滑稽の神が降りてきた」日についてお届けする。
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毎秋恒例、春風亭一之輔のよみうり大手町ホール独演会「落語一之輔」シリーズ。今年は3日間の昼夜公演「一之輔三昼夜」(10月25~27日)で、昼はゲストを招いての企画公演、夜はネタおろし1席を含む独演会。昼公演は初日が「僕の好きな色物さん」でトリは紙切りの林家正楽。二日目は三遊亭天どんとの二人会、三日目は師匠一朝との親子会。夜のネタおろしは第一夜が『佐々木政談』、第二夜が『もう半分』、第三夜が『たちきり』だった。
奉行の佐々木信濃守が四郎吉という子供の頓智頓才を気に入って士分に取り立てる『佐々木政談』。一之輔は四郎吉を素直で可愛い子供、奉行を器の大きな人物として描いていて、実に気持ちいい。桶屋を継がせようとしていた父が「桶屋はどうする?」と訊くと四郎吉が「捨ておけ(桶)」でサゲ。三遊亭圓窓の型だ。
『もう半分』は殺害場面で鳴り物が入って芝居がかりになる五街道雲助の型。志ん生系や五代目今輔系とは違い酒屋の亭主も悪党で、口封じのために爺さんを刺し殺す。
『たちきり』は入船亭扇橋の型で、八代目可楽同様、若旦那が惚れた娘芸者の名は小糸ではなく「小久」。上方由来の大ネタ人情噺だが、第三夜のハイライトは『たちきり』ではなく、1席目の『つる』だった。
一之輔の落語で「隠居が八五郎にモノを教える」とき、しばしばこの二人は勝手に動き始める。この日の『つる』がまさにそれだ。
「つるの由来」にいちいち「なんで?なんで?」と訊いて話の腰を折る面倒臭い八五郎に根気よく説明する隠居。「昔むかし、唐土の……正直ここはどうでもいいよ。何ならお爺さんも、とばしていい」 すると八五郎「え、お爺さんも飛ぶの?」と羽を広げるポーズ。思わず噴き出す隠居、というか一之輔自身。
「面白いなオマエ(笑)。ホントに笑っちゃったよ、俺。お爺さん飛ばないよ。だから白髪の……(羽を広げる八五郎に噴き出す)先へ進まないから!(また羽を広げる八五郎)やめろよ! 笑っちゃうから!」