二つ目は「上司が精神論を振りかざす“昭和タイプ”。『やるしかないだろう』が口癖で困っています」というお悩み。回答の最初で菅首相は、その上司と同じ世代として「他人事とは思えない心境」だと書いています。
昨今の菅首相は、専門家がこぞって「Go Toは中止したほうがいい」と言っているにもかかわらず、頑なに「やるしかないだろう」という姿勢を崩していません。いったいどういうつもりで、どうしたいのか。回答の中にそれを探るヒントがありました。
菅首相は「やると決めたら、がむしゃらに頑張り過ぎてしまうのが私たちの世代なのです」と言いつつ、自分の事務所は厳しいことで有名だけど、若いスタッフの定着率が高いという自慢話を始めます。その理由について、こう考えているとか。
〈私とスタッフがきちんとコミュニケーションを取れていて、スタッフが私の思いを理解してくれているからだと思っています。〉
日本は「厳しい」状態にありますが、現状では菅首相と国民とのあいだで、十分なコミュニケーションが取れているとは言えません。政府の人たちは「お答えを差し控える」がすっかり口癖になり、平気でコミュニケーションを遮断するようになりました。説明の必要性はわかっているようなので、きっと事態は改善していくはず。改善しないとしたら、それは説明できない理由があるか、説明する能力がないかのどちらかです。
3つ目は「プロジェクト内の部下が不仲。上司としてどうすべきでしょうか」というお悩み。これはまさに、今の日本の状況ではないでしょうか。誰もが幸せに暮らせる国にするという「プロジェクト」のメンバー同士が、さまざまな格差や分断で不仲になり対立し合っています。菅首相は国全体の「上司」として、どうすべきと考えているのでしょう。
この回答でも、まずは自分の実績をアピール。2月の「ダイヤモンド・プリンセス号」の件では関係省庁の幹部を集めて檄を飛ばしたとか、2009年の衆議院選挙で選対副本部長を務めたときには「これは嫌われるのが仕事だな」と腹をくくったとか。その上で、こう諭します。
〈あなたが嫌われる勇気を持って事態に対処すれば、部下たちも「こんな状態のまま、わだかまりを抱えている場合ではない」と思い直すのではないでしょうか。〉
さらに、愛読書だというマキャベリの『君主論』から、「恐れられるよりも愛されるほうがよいか、それとも逆か。……二つのうちの一つを手放さねばならないときには、愛されるよりも恐れられていたほうがはるかに安全である」という言葉を引用しています。
合点がいきました。菅首相がこんなに無愛想で、不思議なぐらい見ているものの神経を逆なでするもの言いをするのは、自分が嫌われ役になって、バラバラになっている国民の心をひとつにまとめようとしているんですね。なんという深慮遠謀。そういうことなら遠慮はいりません。敬意を表しつつ、正直な感情を抱かせてもらいましょう。
そのほかのお悩みへの回答も、示唆に富んだものばかり。さらに、全体を通じて大切な教えを授かることができます。それは「言うは易く行うは難し」ということ。表紙には「心が晴れる、前向きになれる、日本人でよかった!」と書かれていますが、どこをどう読めばそういう気持ちになれるのかはよくわかりません。いろんなことを考えさせられる一冊です。