NHKの前田晃伸会長は「報道機関として不偏不党の立場を守る」という方針を掲げたが、現場の記者と政権との間に“緊張関係”があるようには見えない。菅義偉首相の「原稿棒読み会見」の内幕を暴露する──。
菅首相が就任以来2か月半ぶりに開いた記者会見(12月4日)でNHKの記者が質問したのは、首相が所信表明で高らかに打ち出した2050年までにCO2の収支をゼロにする「カーボンニュートラル」(*注)についてだった。
【*注/二酸化炭素の排出量と吸収量とがプラスマイナスゼロの状態になること】
「いろいろハードルがある中で、何より国民の理解、協力というのが一番大事なのではないかと思います。その国民が具体的にイメージしやすいようにするためにも、どのように理解を得ていくお考えでしょうか」
首相にすれば“聞いてほしかった問い”だったのだろう。スラスラと用意された“答弁書”を読み上げた。こういうのをヨイショ質問という。
菅首相は会見で厳しい質問をされるのが大嫌いだ。官房長官時代、“天敵”と呼ばれた望月衣塑子・東京新聞社会部記者に加計学園問題などで執拗に食い下がられ、感情的に答える場面がしばしばあったが、今回の会見は首相が嫌がる質問が出ないように“厳戒態勢”が敷かれていたという。
『記者会見ゲリラ戦記』などの著書があるフリーランスライターの畠山理仁氏が語る。
「官邸の会見室は120席あったが、コロナ後はソーシャルディスタンスということで29席に減らされた。そのうち19席は内閣記者会、残り10席を専門記者会、雑誌協会、インターネット協会、外国メディア、フリーから抽選で決める。官邸報道室があみだくじで決めているそうですが、申し込んだ本人は抽選に立ち会えない」
総理会見は官邸記者クラブ(内閣記者会)が主催する。クラブに加盟する新聞社やテレビ局の記者は優先的に参加できるが、フリーの記者は官邸に登録(審査あり)したうえで、会見のたびに参加申し込みが必要だ。その中から抽選に当たってようやく出席が認められる。
今回の総理会見は臨時国会の閉会を受けて開かれる恒例のものだ。
ところが、官邸報道室から畠山氏に案内のメールが届いたのは当日の朝9時半。申し込み締め切りは午前11時半、わずか2時間前だった。