12月4日、菅義偉・首相が就任以来2か月半ぶりに記者会見を開いた。今回の総理会見は臨時国会の閉会を受けて開かれる恒例のものだ。
総理会見は官邸記者クラブ(内閣記者会)が主催する。クラブに加盟する新聞社やテレビ局の記者は優先的に参加できるが、フリーの記者は官邸に登録(審査あり)したうえで、会見のたびに参加申し込みが必要だ。その中から抽選に当たってようやく出席が認められる。
ところが、官邸報道室から『記者会見ゲリラ戦記』などの著書があるフリーランスライターの畠山理仁氏によると、案内のメールが届いたのは当日の朝9時半。申し込み締め切りは午前11時半、わずか2時間前だった。
フリーの記者は内閣記者会の記者と違って官邸や国会内に常駐しているわけではない。当日、ギリギリで案内が来ても、他の取材日程を入れていることは少なくない。
案内が遅れたのは、厳しい質問が予想されるフリー記者の参加を会見から“締め出し”たかったからではないか──そう見ることもできるだろう。
菅首相にすれば、うるさ型のフリー記者の質問さえ封じ込めておけば、大メディアは怖くない。
総理会見では、官邸記者クラブの幹事社2社(加盟社の持ち回り)の記者が重要事項について3点ほど代表して質問する。その後、他の加盟社の記者が数人、次にネットや海外メディア、フリー記者などが指名され、首相と自由な質疑応答が行なわれる建前だ。
だが、12月4日の菅首相は、新聞・テレビの記者たちの質問に対し、あたかも内容を予期していたように手元に用意した答弁メモを読み続けた。なぜ、菅首相は質問内容を知っていたのか。畠山氏が語る。
「官邸報道室は幹事社以外の他の新聞・テレビの記者に対しても、『いま興味を持っていることをうかがいたい』と言って事前に質問取りに回っています。答えなくてもいいのでしょうが、そうすると会見で手を上げても指名してもらえない。だから司会の内閣広報官のもとにはあらかじめ各社の質問をまとめた資料があり、それをもとに指名していくとされています。どんな質問がなされるかわかるので、総理は用意された答弁メモを読むだけでいい。フリーの記者には事前の質問取りはありません」
官邸報道室も事実上認める言い方をした。
「幹事社の質問は事前に書面でいただく慣例になっていますが、幹事社以外に質問取りはしない。ただし、職員の普段からの活動として、記者会の方の関心事をお聞きしている。それを基に報道室で答弁書を作成することはないが、その関心事を内閣府には報告している」
これでは記者クラブの記者が事前に質問を官邸側に教え、総理を守ってやる“裏取引”ではないか。新聞・テレビの記者から菅首相の痛いところを突く厳しい質問が出るはずがない。