しかも、住基ネットは市区町村ごとに富士通やNEC、NTTデータなどのITゼネコンが入り込んで別々のシステムを作ってきたため、国全体で足し算ができないという根本的な欠陥がある。国民は戸籍、住民票、確定申告、扶養控除、国勢調査などの個人情報を何度も役所に登録してきたが、それらはバラバラで電子的に統合されていない。
このため、たとえば私が消費者金融で借金をする際に、氏名の読み仮名を「オオマエケンイチ」から「オオサキケンイチ」に変えれば、信用情報の照会サービスでは「別人」と判断される。法務省は戸籍について今後データベースとして活用するため氏名に読み仮名を付けることを検討しているというが、そんなことをしても世帯や家族も含めた個人情報が全部わかるリレーショナルデータベースを作らなければ、このような問題は解決できないのだ。
そもそも、今のマイナポータルのシステムも極めて使い勝手が悪い。たとえばスマホの場合は毎回マイナンバーカードとのすり合わせ、PCの場合はICカードリーダーによる読み込みが必要だ。また、マイナンバーカードの取得やマイナポータルへの登録には複数のパスワードを設定しなければならず、パスワードを入力する際に連続して間違えるとロックされてしまい(*)、それを解除するためには役所の窓口に足を運ばねばならない。
【*/「利用者証明用電子証明書」のパスワード(暗証番号)は数字4桁で、3回連続して間違えるとロックがかかる。また、「署名用電子証明書」のパスワードは英数字6文字以上16文字以下で、5回連続で間違えるとロックされる】
利用者にとってあまりに不便な一方で、ハッカーからすれば生体認証より格段に破りやすい。こんなシステムを今後も温存していこうという発想自体、私には理解不能だ。
要するに、今のマイナンバーカードのシステムに“後づけ”で機能を付加していくのではなく、新たな国民データベースをゼロから構築すべきなのである。それは基本的に一つのシステムで動かせるものだから、日本全国の市区町村でバラバラに作られたシステムを統合するよりはるかに手っ取り早いし、安上がりなものになるはずだ。
実際、すでに中国は13億人の国民を数秒で特定できる巨大な顔認証データベースを作り上げているのだから、技術的には人口が10分の1の日本にできないわけがない。しかし、ITゼネコンにしてみれば、自分たちの“食い扶持”を減らすような提案は絶対にしないだろうし、発注者である政府が国民データベースというものを理解しない限り、永遠に実現しないだろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『日本の論点2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。
※週刊ポスト2020年12月25日号