映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、俳優の“言葉”について綴る週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・黒沢年雄による“バラエティ番組”に関する言葉を紹介する。
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黒沢年雄は近年ではバラエティ番組の出演や講演など、映画やドラマ以外の仕事も精力的におこなっている。
「俳優になって、徐々に気づいたの。俺はこのままだったら絶対に消える、と。
なぜかというと、人より優れているものが一つもないから。顔、芝居、歌。上には上がいる。高倉健さんのあの存在感、あの声。三船敏郎さんの豪快さ。加山雄三さんの育ちのよさ、歌の上手さ、ギター。これはもう敵わない。それなら、俺にしかできないキャラクターを作ろうと思ったんです。帽子もそう、ひげもそう。誰もやらないことをやろうと思った。黒沢年雄カラーを作ろうと。
だから俺は俳優もやるし、歌もやるし、バラエティ番組も出る。講演もやる。だから七十六歳になっても、こうやって仕事をもらえているんですよ。
『バラエティ? あんなバカバカしいことやってられるか』と文句を言う俳優もいますよ。でも、文句言ってたら食えない。それが一番嫌いなタイプ。
人に笑われようが、それでも役者なんですよ。バラエティ番組だって、演技すれば役者。演技するためにこの世界に入ったのなら、どこで演技したっていいじゃない。そもそも映画も芝居も話が来ないんだから。その発想の転換ができないと。
最初はバカにされましたよ。バラエティ番組に出れば『映画俳優なのに』。講演も九十分の時間をしゃべりきることができなくて、苦情が来ました。でも克服するんです。恥をかきながらね。それが俺の生き方で、今日に至っているわけです」
インタビューをしていて気づいたのは、スターに憧れて映画界に入り、若い頃から東宝で主役級を演じてきた矜持を、今も黒沢は保っていることだ。