例年より2か月遅れでスタートしている朝ドラ新作。視聴率からみると、スタートダッシュに成功したとはいえないようだが(初回は18.8%)、ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘した。
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波乱に満ちた2020年を象徴する漢字は「密」。では、新たなNHK朝ドラ『おちょやん』を漢字一文字で表せば……「巧」。松竹新喜劇等で人気を博した浪花千栄子がモデルの物語ですが、とにかく主人公・千代を演じる杉咲花の演技が、巧みで上手い。
千代は貧乏な家に生まれ、父に捨てられ芝居小屋のお茶子奉公に出る。幼い頃から苦労に苦労を重ねているけれど性格は底抜けに明るく、座布団を何枚も重ねて持ち小走りし、お茶子としてパワフルに働いています。
千代を演じているのは東京出身の杉咲さん。毎朝、こてこての大坂弁のセリフはさぞや高いハードルかと思きや、かなりの評判をとっているもよう。東京出身の私では判断がつかないので関西出身の知人に改めて確認しましたが、「違和感なく自然に聞いていられるレベル」と高評価です。
実は、杉咲さんは方言で芝居するのはほぼ初めてとか。それにしては信じられないほどスピード感があり、ああいえばこういう小気味良さ。実に「巧い」。練習量といったことを超えた天性の耳と芝居勘がありそうです。
千代は元気で威勢が良いけれど、緩急メリハリをつける演技の方も「巧い」。今週は岡安の女将・シズ(篠原涼子)に思いを馳せ続ける過去の恋人・延四郎(片岡松十郎)が登場しました。延四郎とシズの秘められた関係。二人の間をとりもつ千代。苦しむ延四郎を前にして、千代は無言のうちに「二人のためにできることは何だろう」と逡巡する。微妙な心持ち、心の揺れをセリフではなく瞳だけでピタリと表現しました。
千代は延四郎からの手紙を預かり、シズへと渡しました。キャピキャピしたお茶子姿を見せつけた上で、しっとりとした大人の恋の橋渡しに。登場からまだ5日ですが、ドラマの世界を一気に杉咲花色へと染め上げたようです。
ではもしこれから杉咲さんに課されるはずのテーマがあるとすれば……それはいったい何でしょうか?