生活習慣病発症の原因は老化細胞の蓄積が原因ではないか──との考え方がある。これが細胞老化仮説だ。この20年の研究で動脈硬化や糖尿病などの発症・進展に老化細胞が関わっていることが明らかになってきた。最近、老化細胞を標的としたワクチンで、蓄積した老化細胞を除去し、病気の改善を図ろうとする治療の開発が始まった。生活習慣病の根本治療に繋がると期待が大きい。
細胞は一定回数の分裂を繰り返すと、それ以上は分裂しない。この状態を細胞老化といい、これに関わっているのが染色体DNAの先端にあるテロメアといわれ、分裂のたびに短くなり、ある一定の短さになったとき細胞老化が起こる。細胞老化を起こした細胞のことを「老化細胞」という。動脈硬化や糖尿病など様々な生活習慣病・加齢関連疾患の原因は細胞レベルでの「老化細胞」が背景にあるのではないか、という考え方が細胞老化仮説である。
長年にわたり、細胞老化研究に携わってきた、順天堂大学大学院循環器内科の南野徹教授に話を聞く。
「動脈硬化は血管の内側にコレステロールや炎症細胞などが付着し、蓄積して血管が狭く硬くなり、血流が悪くなる病気です。しかし、そもそも血管内に、それらが付着するのは血管内皮細胞の老化が関係しているのではないかと研究を開始しました。その結果、血管の老化細胞が動脈硬化の一因であることが動物実験で明らかになったのです」
血管内皮細胞も一定回数以上分裂すると老化する。それに伴い、血管拡張作用のある一酸化窒素合成酵素の活性が低下することで、血管のしなやかさが失われてしまうのがわかってきた。
さらに細胞老化の状態になると老化分子や炎症分子など様々な生理活性物質を分泌するSASP(サスプ:細胞老化随伴分泌現象)が起こってしまい、より動脈硬化が悪化する。このSASPで、複数の炎症性サイトカインが増加。炎症性サイトカインは周囲に広がり、臓器に慢性炎症を引き起こし、臓器の老化を促進する。