120円という異例の年俸が話題の「おっさんJリーガー」こと安彦考真選手(42)が、先日のJ3最終節をもって引退を迎えた。人生初の先発出場のチャンスを掴んだ“引退試合”の会場には、Jリーガーとしての最後の姿を見るために大勢のサポーターが駆けつけた。試合後の挨拶では“格闘家転身宣言”も飛び出した、おっさんJリーガーの「いちばん長い日」に密着した。
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「(58分間の出場で)もうちょっと長い時間プレーしたかったという思いもありますけど、試合を終えたいまは体中が痛いし、できることはやり切ったという気持ちです。(ねらっていた)J3最年長ゴールは決められなかったけど、味方のゴールが決まる瞬間をピッチで味わえて、17試合勝利がなかったなか最後に勝つことができましたし。やっぱりスタメンで出るのは気持ちがいい。僕にとっては一生忘れられないハッピーな1日になりました!」
2020年12月20日のJ3最終節。今季限りでの現役引退を表明していた年俸120円の異色の「おっさんJリーガー」、YS横浜のFW安彦考真は、最終戦を終えた感想を素直にそう話した。
それにしても安彦のキャリアは異色だ──。
高校卒業後は憧れていたカズ(三浦知良)を追うようにブラジルに渡った。しかし、デビュー寸前のところで前十字靱帯断裂の大ケガをして帰国し、その後サガン鳥栖と清水エスパルスの入団テストを受けるも不合格。20代半ばにして一旦はプロへの夢を諦め、Jリーグクラブの通訳や日本代表選手のマネジメント、通信制高校の講師などを約15年間務めてきた。
だが、39歳だった2017年夏に突如、もう一度Jリーガーを目指すと一念発起し、練習生から這い上がり2018年3月にJ2水戸ホーリーホックと異例の「年俸10円」で契約。水戸で出場機会はなかったが、翌年YS横浜に移籍して同年の開幕戦で史上最年長となる41歳1カ月9日でJリーグデビューを果たした。
昨季は8試合、今季もここまで4試合に途中出場していたが、まだゴールもなければ、先発出場したこともなかった。そんな安彦が、引退目前の最終戦、ホームでの藤枝MYFC戦(1-0)でまさかのプロ初先発を果たすと、惜しくも初得点はならなかったが、序盤からアグレッシブなプレーを見せてチームを勝利に導いた。
「スタメンを聞いたのは当日のミーティング。17戦勝ちがないなかで、僕をスタメンで起用するなんて監督はどんだけチャレンジャーなんだって思いました(笑い)。でも、期待に応えたいという思いでいっぱいで、緊張はなかった」
最大の見せ場は52分に訪れた。YS横浜は、安彦のポストプレーから左に展開すると、音泉翔眞のクロスに対し、安彦がファーサイドに動き出す。相手DFも安彦の動きにつられ、ぽっかり空いたスペースに走り込んだ主将の宮尾孝一が決めた。
「試合前から、PKになれば僕が蹴らせてもらえる空気があったので練習はしてたんですけどね(苦笑)。でも、得点シーンは自分が相手を引き付けた結果。チームは勝ちましたし、僕はヒーローじゃなくていいんです。泥臭くやれれば。スタジアムに集まってくれたみなさんに42歳のおっさんJリーガーの集大成を見てもらえたことが何よりうれしい。ゴールは取れなかったですが、それは次の舞台でのエネルギーにしたい。人生は悔いの連続だし、悔いが残るのは悪いことじゃない。大事なのは、それをそのままにしないで、次にどう生かすかですから」