長距離移動のために日本へ導入された鉄道だが、しだいに通勤や通学など短距離移動にも利用されるようになった。都市の人口が拡大するにつれ、その需要は右肩上がりとなり、いかに大量に輸送できるかという観点で通勤用の車両も開発された。だが、働き方の多様化がすすんだことによって、通勤用の車両のあり方も変わりつつある。ライターの小川裕夫氏が、関西ではイメージキャラクター「おけいはん」でおなじみの、大阪・京都・滋賀を走る京阪電気鉄道の座席の昇降装置が引退する事情についてレポートする。
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新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する以前まで、東京・大阪をはじめとする大都市圏の鉄道各線は慢性的に混雑していた。そうした混雑を少しでも緩和するため、東京都は”時差Biz”を奨励。東急電鉄とタッグを組み、2017年度から断続的に田園都市線で時差Bizライナーを運行している。
時差Bizライナーには利用駅のパターンによって通勤利用客が乗る車両を分散させ、それにより混雑の緩和につなげようとの目的がある。2019年は、溝の口駅─渋谷駅間をノンストップで走った。さらに、2018年からは東横線でも時差Biz特急の運行を開始してもいる。この動きは他社にも広がっており、2020年1月には京王電鉄が臨時座席指定列車”京王ライナー時差Biz”を走らせている。
混雑緩和の取り組みは、大阪圏でも実施されてきた。そのなかでも、ユニークな技術も活用して取り組んできたのが、京都─大阪間を結ぶ京阪電気鉄道(京阪)だ。
京阪は車両技術に関して定評があり、日本初となる技術などを次々と生み出してきた。そのため、鉄道ファンからは”技術の京阪”との定評もあった。一般的に京阪といえば、電車内にテレビを設置したテレビカーや2階建てのダブルデッカーといったハイクオリティな車両を登場させたことで知られている。これら京阪の車両は単に技術的に優れているだけではなく、運賃のみで乗車できることも大きなウリだった。
そうしたテレビカーやダブルデッカーに隠れがちだが、京阪の高い技術力は混雑対策にもうまく活用されてきた。通勤時の混雑対策といえば、近年は利用者に時差通勤を促すソフト面が重視される傾向にあるが、かつては輸送力を増強することを優先する風潮があった。そのため、大量輸送を可能にする車両の開発が盛んだった。そのひとつが座席を収納して混雑時には一つの車両に乗れる人数を増やし、輸送能力を上げるというものだ。複数の鉄道会社に似たようなコンセプトの車両はあったが、高い技術力を持つ京阪は、同じ座席収納タイプでも「座席昇降装置」を搭載した5000系を生み出した。
「5000系が誕生したのは1970年ですから、半世紀にわたって京阪で運行されてきたことになります。当時は通勤ラッシュが激しく、深刻な問題でした。そうした背景から、5000系が生まれたのです」と説明するのは、京阪広報部の担当者だ。