ビジネス

混雑対策だった京阪の座席昇降装置 誕生50年で役割を終える

運用停止が決まった京阪5000系の自動で昇降する座席。今後は昇降させずに走ることになる

運用停止が決まった京阪5000系の自動で昇降する座席。今後は昇降させずに走ることになる

 長距離移動のために日本へ導入された鉄道だが、しだいに通勤や通学など短距離移動にも利用されるようになった。都市の人口が拡大するにつれ、その需要は右肩上がりとなり、いかに大量に輸送できるかという観点で通勤用の車両も開発された。だが、働き方の多様化がすすんだことによって、通勤用の車両のあり方も変わりつつある。ライターの小川裕夫氏が、関西ではイメージキャラクター「おけいはん」でおなじみの、大阪・京都・滋賀を走る京阪電気鉄道の座席の昇降装置が引退する事情についてレポートする。

 * * *
 新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する以前まで、東京・大阪をはじめとする大都市圏の鉄道各線は慢性的に混雑していた。そうした混雑を少しでも緩和するため、東京都は”時差Biz”を奨励。東急電鉄とタッグを組み、2017年度から断続的に田園都市線で時差Bizライナーを運行している。

 時差Bizライナーには利用駅のパターンによって通勤利用客が乗る車両を分散させ、それにより混雑の緩和につなげようとの目的がある。2019年は、溝の口駅─渋谷駅間をノンストップで走った。さらに、2018年からは東横線でも時差Biz特急の運行を開始してもいる。この動きは他社にも広がっており、2020年1月には京王電鉄が臨時座席指定列車”京王ライナー時差Biz”を走らせている。

 混雑緩和の取り組みは、大阪圏でも実施されてきた。そのなかでも、ユニークな技術も活用して取り組んできたのが、京都─大阪間を結ぶ京阪電気鉄道(京阪)だ。

 京阪は車両技術に関して定評があり、日本初となる技術などを次々と生み出してきた。そのため、鉄道ファンからは”技術の京阪”との定評もあった。一般的に京阪といえば、電車内にテレビを設置したテレビカーや2階建てのダブルデッカーといったハイクオリティな車両を登場させたことで知られている。これら京阪の車両は単に技術的に優れているだけではなく、運賃のみで乗車できることも大きなウリだった。

 そうしたテレビカーやダブルデッカーに隠れがちだが、京阪の高い技術力は混雑対策にもうまく活用されてきた。通勤時の混雑対策といえば、近年は利用者に時差通勤を促すソフト面が重視される傾向にあるが、かつては輸送力を増強することを優先する風潮があった。そのため、大量輸送を可能にする車両の開発が盛んだった。そのひとつが座席を収納して混雑時には一つの車両に乗れる人数を増やし、輸送能力を上げるというものだ。複数の鉄道会社に似たようなコンセプトの車両はあったが、高い技術力を持つ京阪は、同じ座席収納タイプでも「座席昇降装置」を搭載した5000系を生み出した。

「5000系が誕生したのは1970年ですから、半世紀にわたって京阪で運行されてきたことになります。当時は通勤ラッシュが激しく、深刻な問題でした。そうした背景から、5000系が生まれたのです」と説明するのは、京阪広報部の担当者だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ブラジルを公式訪問している佳子さま(写真/アフロ)
佳子さま、外交関係樹立130周年のブラジルを公式訪問 子供たちと笑顔でハイタッチ、花柄のドレス姿も 
女性セブン
来来亭・浜松幸店の店主が異物混入の詳細を明かした(右は来来亭公式Xより)
《“ウジ虫混入ラーメン”が物議の来来亭》店主が明かした“当日の対応”「店舗内の目視では、虫は確認できなかった」「すぐにラーメンと餃子を作り直して」
NEWSポストセブン
家出した中学生を自宅に住まわせ売春させたとして逮捕された三ノ輪勝容疑者(左はInstagramより)
《顔面タトゥーの男が中学生売春》「地元の警察でも有名だと…」自称暴力団・三ノ輪勝容疑者(33)の“意外な素顔”と近隣住民が耳にしていた「若い女性の声」
NEWSポストセブン
山本賢太アナウンサーのプロフィール。「人生は超回復」がモットー(フジテレビ公式HPより)
《後悔と恥ずかしさ》フジ山本賢太アナが過去のオンラインカジノ利用で謝罪 「うちにも”オンカジ”が…」戦々恐々とする人たち
NEWSポストセブン
親日路線を貫いた尹政権を「日本に擦り寄る屈辱外交」と断じていた李在明氏(時事通信フォト)
韓国・李在明新大統領は親中派「習近平氏の接近は時間の問題」、高まる“日本有事”リスク 日米韓による中国包囲網から韓国が抜ける最悪のケースも
週刊ポスト
週刊ポストの名物企画でもあった「ONK座談会」2003年開催時のスリーショット(撮影/山崎力夫)
《追悼・長嶋茂雄さん》「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 落合博満の巨人入団をめぐって議論白熱「どう転ぶかわからないけど、ボクは落合を獲るのがいいと判断した」
週刊ポスト
田中真一さんと真美子さん(左/リコーブラックラムズ東京の公式サイトより、右/レッドウェーブ公式サイトより)
《真美子さんとの約束》大谷翔平の義兄がラグビーチームを退団していた! 過去に大怪我も現役続行にこだわる「妹との共通点」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《「来来亭」の“ウジムシ混入ラーメン”動画が物議》本部が「他の客のラーメンへの混入」に公式回答「(動画の)お客様以外からのお問い合わせはございません」
NEWSポストセブン
金スマ放送終了に伴いひとり農業生活も引退へ(常陸大宮市のX、TBS公式サイトより)
《金スマ『ひとり農業』ロケ地が耕作放棄地に…》名物ディレクター・ヘルムート氏が畑の所有者に「農地はお返しします」
NEWSポストセブン
6月9日付けで「研音」所属となった俳優・宮野真守(41)。突然の発表はファンにとっても青天の霹靂だった(時事通信フォトより)
《電撃退団の舞台裏》「2029年までスケジュールが埋まっていた」声優・宮野真守が「研音」へ“スピード移籍”した背景と、研音俳優・福士蒼汰との“ただならぬ関係”
NEWSポストセブン
小室夫妻に立ちはだかる壁(時事通信フォト)
《眞子さん第一子出産》年収4000万円の小室圭さんも“カツカツ”に? NYで待ち受ける“高額子育てコスト”「保育施設の年間平均料金は約680万円」
週刊ポスト
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン