志駕晃さんの『女性セブン』の人気連載小説をまとめた単行本『彼女のスマホがつながらない』が発売になった。同作はコロナに揺れる日本で発生した現実の出来事やニュースを、リアルタイムで反映させた意欲作。発刊を記念して作者の志駕さんと、同じクリエイターとしてコロナ禍で芸術文化を守り続ける鴻上尚史さんが、激動の1年を語る。
〈小説と演劇。表現方法は違えど、ともに「物語」を作るふたりの対談はその方法をめぐってスタートした〉
鴻上:ミステリーの魅力って、ストーリーそのものの面白さと、トリックの驚きの両方から成り立っていると思うんですが、志駕さんは、トリックとストーリーのどちらから考えているんですか?
志駕:基本的には、ストーリーからです。どんどん話を先に進めて、いよいよ主人公が追い詰められたら、さてどう乗り越えようかとトリックを考える。
鴻上:こんな事件が起きて、主人公がピンチになって……と書き進めて、最終的な解決法は後から考える、と。
志駕:そうです。最後のどんでん返しの部分を先に考えてしまうと、簡単なトリックで終わってしまう。例えば、主人公がスマホを落としたことが大事件に発展する『スマホを落としただけなのに』は、キーとなるトリックを思いつかないまま書き進めていましたが、「スマホの話だから、そのトリックもスマホ絡みがいいな」と思いつきました。
鴻上:書き下ろしはそれでいいかもしれないけれど、連載は困るんじゃないですか?
志駕:想像以上に大変でした。実は今回が初めての連載だったんです。しかも女性誌の小説連載だったので、芸能人のスキャンダル記事とか、リアルなネタのなかに、架空の殺人事件の話はなじまないんじゃないかと思って、最初は断ろうとしたんです。
だけど『女性エイト』という架空の編集部を登場させて、実際に行っている芸能人の直撃取材や張り込み取材の様子を織り交ぜて、そこに女子大生のパパ活殺人事件が重なっていけば週刊誌の読者はその舞台裏を知りたいだろうし、年頃の子供のいる女性にとってパパ活は娘がやっているかもしれないし、夫がだまされるかもしれない。だから興味を持って読んでくれるだろうと考えた。それで連載を引き受けました。