思想・意見・主張・感情などを表現し、発表する自由、いわゆる「表現の自由」は守られるべきものだが、その表現のために他者を過剰に攻撃したり、威力業務妨害まがいの行為を繰り返したりするのは、彼らにとっての「正義」のためとはいえ許されることなのだろうか。ライターの森鷹久氏が、「コロナは風邪」と主張し、新型コロナウイルスを新たな感染症として考えること自体を拒否するグループによって生じている混乱と、戸惑う人々についてレポートする。
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12月、ある平日のお昼過ぎ。客足がパタリと止んだかと思うと、外が少し騒がしくなったことに気がついた。こっそり店外を覗くと、プラカードを持った男女が数人、通行人に向かって何か叫んでいるのが見えたという。宗教か何かの勧誘か……にしては騒々しい。少し観察して、思わず「あっ」と声を上げた。
「男の人たちが大声で『コロナは風邪です!』と叫んでいました、マスクもしないで。テレビで見かけたあの集団だと思うと本当に怖くなりました。一刻も早くどこかへ行って欲しいと、店のみんなでじっと身をすくめ、カウンターの中に隠れていたんですよ」
こう話すのは、東京・港区のとある飲食店従業員女性(30代)。店の入るビルに「新型コロナウイルス」の検査センターがオープンしたのが12月の初頭だった。自覚症状のあるコロナウイルス患者がビルにたくさん押し寄せてきたらどうしよう、当初はそんな不安もあったというが、検査に来る人たちとビルやテナント関係者とのトラブルはなく安心していた。そんな最中に起きたのが、冒頭の騒動である。
「うちのお店に入ろうとするマスク姿のお客さんや搬入業者さんに向かって『マスクなんかするな』と声をあげ、お客さんは逃げるように立ち去っていきました。近くの店舗の男性従業員が文句を言いに行くと、マスクもせずに至近距離に近づいてきて、コロナを信じているのか、情報弱者だと、集団で男性数人に詰め寄られていました」(飲食店従業員女性)
近くのビルのガードマンの男性(50代)は、この一部始終を目撃。自身の管理管轄であるビルに近づかれてはたまらないと思い、集団の一人と話をしたという。
「集団は、都知事選にも出馬した経験のある男性の支持者。新型コロナウイルスは単なる風邪で、恐れる必要はなく、検査場の前でみんなに教えてあげているんだ、という主張をしていました」(ガードマンの男性)