志駕晃さんによる『女性セブン』の連載小説をまとめた単行本『彼女のスマホがつながらない』が発売された。コロナ禍における日本で発生した、現実の出来事やニュースを取り込んだ同作は、まさに時代を映す作品となっている。発刊を記念して作者の志駕さんと、同じくクリエイターとしてコロナ禍で芸術文化を守り続ける鴻上尚史さんが、“スマホありき”となっている現代について語る。
〈ニッポン放送の社員という顔も持つ志駕さん。かつては、ウッチャンナンチャンや中居正広の番組のディレクターを担当したこともある。一方、鴻上さんもかつて『オールナイトニッポン』のパーソナリティーとして人気を博した。当時はまだ“コンプライアンス”なんていう言葉を使う人がいなかった時代、鴻上さんは深夜ラジオという“解放区”のなかで、好き放題な企画を楽しんでいた。しかし、今の時代は、コンプライアンス遵守の考え方が広まり、不適切な発言があればニュースとなり、そのままSNSで大炎上してしまう。スマホやネットの登場で、世の中が大きく変わったことは間違いない〉
鴻上:(ネットやスマホが無かった)あの時代に戻れるかと言われたら、少なくともネットとスマホについて言えば、ぼくらはもうこんな便利なものを手放せない。新しいメディアは人間関係をポジティブにもネガティブにも加速させます。携帯電話ができたせいで口げんかが多くなって別れるカップルも大勢いたように、マイナスの部分を理解しながら、プラスの面に期待してつきあっていけたらと思います。
志駕:まったく同じ意見です。例えばいまの時代、恋人をマッチングアプリで探すのは当たり前。出会いがなかった男女がアプリで出会って、つきあって結婚までするようになった。ただしそれが過剰になると今度はパパ活サイトが登場して、事件やトラブルが生まれる火種になる。
鴻上:SNSを使った男女の出会いも、ツールの使い方次第です。まだツイッターがなかった時代ですけど、親が離婚した女子大生がいたんです。その子は離婚後の母親がおしゃれや化粧をしなくなったことを悲しんで、当時ネット上にあった交際サイトに「当方51才、真剣な交際相手募集」と母親になりすまして投稿し、実際に応募してきた男性から職業や人生のモットーを聞き出して、最終的に候補を3人に絞って「ママ、この3人は保証できるよ」と母親にリストを渡したんです。母親も最初は「何バカなこと言ってんの!」と怒ったけど、だんだん化粧をするようになったんだって。