朝起きて、豆腐とわかめのみそ汁を作りながら炊飯器のスイッチを押す。冷蔵庫から納豆を取り出し、食卓に置けばいつもの朝ご飯の完成だ──この長い間続く営みが実は、少なからず私たちの命を救ってきた。食べたもので体は作られる。いまこそ知りたい「食と体」の不思議。
日本人の体質に合わない食べ物の研究が進んでいる。例えば赤ワイン。フランス人が肉やバターなど高脂質食を好むのに、心臓疾患での死亡率が非常に低いという“矛盾”の理由を探ったところ、ポリフェノールたっぷりの赤ワインを愛飲しているからだと結論づけられたことから生まれた健康ブームだ。ところがそれは欧米人に限った話だった。
「日本人は遺伝的にアルコールを分解する能力が欧米人に比べて低く、それが誘因となるがんになる危険性が欧米人よりも高い。ポリフェノールのメリットよりもアルコールのデメリットの方が大きいことが明らかになっているのです」(医療ジャーナリスト)
まさに海外のトレンドを猿真似すると痛い目に遭う好例だが、こうした「実は日本人の体質には合わない」という食品は枚挙に暇がない。神戸大学医学部客員教授の寺尾啓二さんが指摘する。
「学校給食に出されるほど“健康食品”としておなじみの牛乳も、実はその1つ。牛乳を飲むとお腹の調子が悪くなったり下痢をしたりする人がいますが、これは乳製品に含まれる乳糖(ラクトース)を分解する酵素『ラクターゼ』の分泌量が少ないことによって起きます。歴史的に乳製品を摂ってこなかった日本人は、実に8割もの人が離乳期以降になるとラクターゼを分泌しなくなるのです」
バターも同様だと寺尾さんが続ける。
「よく『マーガリンよりもバターがいい』などといわれますが、どちらも飽和脂肪酸やトランス脂肪酸といった悪玉脂肪酸を多く含むため、欧米人と比べて体温が低い日本人の血液は脂肪を溶かせずにドロドロになり、動脈硬化から心筋梗塞など循環器疾患につながりやすくなる。日本人の体にはいずれも合わないのです」
米国ボストン在住の内科医・大西睦子さんも声をそろえる。
「ハーバード大学の研究では、食事を完全な『動物性食品』から完全な『植物性食品』に変えると、腸内細菌の構成が一日足らずで変化すると報告されています。
つまり、普段から食物繊維や魚など質のよい油を含んだバランスのいい日本食を取り入れていても、牛乳やバター、マーガリンなどがたっぷり入った食事を摂ることで、すぐに体に負担がかかってしまう。西洋型の食生活は免疫システムに負担をかけるともいえるでしょう」
このほか、健康にいいとされるオリーブオイルやコーヒーも「日本人の体に合わない」とする研究も少なくない。
「日本人はカフェインに弱く、カップ2杯程度のコーヒーを飲むと不安定な気持ちになる人が4分の1ほどいるとの報告があります。隣国に住む中国人では見られない現象であるため、日本人特有の体質だと考えるよりほかない」(前出の医療ジャーナリスト)