働きアリの群れには一定割合の「働かないアリ」がいて、その働かないアリを取り除けば全員が働きアリになるのかと試みてみたら、やはり一定割合の働かないアリが出現するという実験結果がある。働く、働かないと単純に二分しつつも、それでは測れない何かの役割を「働かないアリ」は果たしているのではないかという仮説も立てたられているが、本当のところは分からない。人間の社会でこの「働く」「働かない」を可視化したらどうなるのか。ライターの宮添優氏が、会社にいるのに仕事がない「社内失業者」が可視化されたことで起きる混乱についてレポートする。
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リーマンショック直後の2009年8月に有効求人倍率が0.48を記録するなど、不景気と「人あまり」の現実を嫌というほど見せつけられたことは、まだ生々しい体験として残っている人も多いだろう。ところがそれから数年で、有効求人倍率は「1」をあっさり超えて、2018年は平均で1.61を記録するなど、今度は深刻な「人不足」の様相である。第一次ベビーブーマー世代の一斉退職などが原因かと思いきや、現場を調査すると、そこにはさらに深刻な問題が出現していた。
「人は不足していない、むしろ余っている。でも、できる奴が足んないんですよ!」
怒気混じりで筆者のインタビューに答えてくれたのは、都内の海運会社勤務・野老洋一さん(仮名・40代)。会社では数年前から、55歳以上の従業員を対象に「早期退職者」を募集していたが、応じたのは対象者のうち2割に満たない程度。多くが会社に居残ったという。その結果、会社に居るだけで何も仕事がない多くの「社内失業者」が現れた。そして、彼らの存在は、このコロナ禍でより浮き彫りになった。
「早期退職の対象者だったけれど辞めずに残ったある課長は、会社内にいても、どんな仕事をしているか、誰にもわからなかったし、何をしているのかなんて面と向かって聞けませんでした。ですがコロナで、ほぼ全社員がリモート勤務になったら何をしているのか分かって……いや、何もしていないことが分かったんです。課長はパソコンにログインした形跡すらなく、仕事を一つもしていなかった。同じような社内失業者の存在が他にも十数人判明して、会社としては、彼らに何をやらせるか検討するというプロジェクトチームを立ち上げることになったと言われています」