【著者に訊け】志駕晃氏/『彼女のスマホがつながらない』/小学館/1400円+税
2つの時、3つの現場。デビュー作にして北川景子主演で映画化もされた『スマホを落としただけなのに』(2017年)の著者、志駕晃氏の新作『彼女のスマホがつながらない』では、鎌倉の由比ガ浜に若い女の死体が流れ着き、鎌倉署に帳場が立った令和2年2~9月を、仙台出身の女子大生〈相沢咲希〉やその友達が訳あって〈パパ活〉に走るまでを描いた平成30年6月以降が刻々と追走。
1つは鎌倉署、1つは白金の聖百合女子大、今1つは一ツ橋出版の〈女性エイト〉編集部にカメラを置き、事件の解決までを現実とほぼ同時進行で描いてみせた、〈リアルタイム連載小説〉だった。
連載期間は今年2~10月。つまり東京五輪の延期など想像しなかった時点で本作は書き始められ、その間の出来事を入社5年目の編集部員〈新垣友映〉らの日常を通じて並走させた、前代未聞の趣向といえよう。
「僕は根が放送屋だからか、読者が途中で飽きやしないか、いつも不安で不安で。できれば新しいことを一生やり続けたいくらい、要は心配性なんです(笑い)」
まず驚くのがその執筆スケジュールだ。
「確か昨年の秋です。『女性セブン』から小説の連載を依頼されて、取材を始めたのが。その時は東京五輪にピークを置く予定で、今とは全然違う話だったんですが、女性読者が興味を持ってくれそうな週刊誌の舞台裏とパパ活を核にはしようと思っていました。
連載中は毎週月曜日にゲラを戻し、その週の木曜に雑誌が出る強行日程を組んだんですが、意外にもそれができちゃった(笑い)。例えば要所要所にある何月何日という日付は実際の雑誌の刊行日で、その週の話題やゴシップも盛り込みながら、虚構の、しかも2つの時間が、追いつけ追い越せで進んでいく。
過去パートの時計は1か月、現在パートは1週間刻みで進めると大体8か月で追いつく計算で、大変は大変でしたけど、捜査本部にコロナを流行らせてみたり、思った以上に面白いものが書けました」