正月は、一般人にもヤクザにも等しくやってくる。ただ、ヤクザにとっての正月は重要なシノギ(資金獲得の手段)でもあるのだという。暴力団取材に精通するジャーナリスト、鈴木智彦氏(フリーライター)と溝口敦氏(ノンフィクション作家)が、ヤクザの正月について徹底解説する。
溝口:ヤクザにとって正月はシノギの機会でもあります。一番大きいのは正月飾り。門松なんかを飲食店や一般人に買わせるわけです。
鈴木:10月に渋谷で正月飾りを「みかじめ料」代わりに売りつけたとして稲川会系組員が逮捕されたし、2019年は北海道のススキノで、警察が暴力団から買わないようにと先にしめ縄を飲食店に配っていました。あまり指摘されることがないけど、正月飾りは暴力団の独占利権ですからね。
溝口:クリスマスツリーも実はそうです。クラブや飲食店に飾っているツリーは、暴力団が絡んでいることが多い。
鈴木:別に強制的に買わせているわけでなくても、付き合いもあるし、揉めたら面倒臭いというので買ってしまう。
溝口:縁起物だからってのもあります。11月の酉の市で売っている熊手もそうですね。かつて新宿の神社で熊手を売っていたヤクザは、テキ屋としては姉ヶ崎会(テキ屋系暴力団)に所属していて、そのほかに博徒として後藤組(山口組系)にも入っていた。熊手を売るのには姉ヶ崎会の名前を使い、そのほかのシノギでは後藤組の名に頼っていたみたいです。テキ屋系は真面目に出店をやるけど、暴力的な行動はあまりしないから。
鈴木:珍しいケースではありますが。
溝口:面白いのは、同じ暴力団でもテキ屋系と博徒系では、拝む神様が違うんです。祭壇に博徒系が天照皇大神と春日大明神、そして八幡大菩薩を掲げるのに対して、テキ屋系は天照皇大神、今上天皇、もう一つ神農黄帝という農業などの神様を掲げる。だから博徒系からはテキ屋は「神農さん」と呼ばれたりする。
鈴木:テキ屋系としては極東会(新宿に拠点を置く暴力団)なんかが有名です。酉の市の出店の前に「極東」って書かれたデカい提灯をぶら下げて熊手を売ってましたから。