各地のデパートなどで時折、開催する「駅弁大会」は大人気だ。だが、実際に車窓を眺めながら駅弁を食べたのは、いつだったろうかと最近の体験を思い出せなくなっている人が少なくないのではないか。ライターの小川裕夫氏が、小田急ロマンスカー車内販売の取りやめをきっかけに、鉄道と飲食サービスについてレポートする。
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2020年における最大のトピックスは、なんといっても新型コロナウイルスの感染拡大だろう。4月7日に発令された緊急事態宣言は5月に全国で解除されたが、その後に第2波が襲来。現在は第3波の真っ只中にあり、コロナ禍は収束する気配を見せない。
飲食店では閑古鳥が鳴き、観光地からは客足が遠のく。どこの業界も苦境に追い込まれた一年だったが、コロナ禍は鉄道業界にも容赦なかった。それは2020年に限った話ではなく、2021年にも影響が出始めている。
「コロナの影響もあり、2021年3月のダイヤ改正を機にロマンスカーの車内販売は取りやめになります。以降は、車内に設置された自動販売機の利用を呼びかける予定です」と話すのは、小田急電鉄CSR・広報部の報道担当者だ。
小田急は、東京・新宿と小田原や江の島などを結ぶ鉄道路線。看板特急のロマンスカーは、箱根路への足として絶大な人気を誇る。小田急ロマンスカーはゆったりした座席のために寛いで移動ができるほか、広い窓ガラスのため雄大な景色を堪能できることも評判を高めた。
それ以上にロマンスカーのウリだったのは、淹れたてコーヒーやほかほかの弁当・サンドイッチなどを座席まで運んできてくれるシートサービスだった。
ロマンスカーでシートサービスが開始された当時はまだ、コンビニやファミレスが日本に存在していなかった。当時の鉄道旅をする人にとって飲食の心配が今より大きい。そのため、全国に線路を敷いていた国鉄は乗車時間も長くなるので食堂車を連結して利用者に食事を提供した。しかし、私鉄の乗車時間は長くても2時間ほどしかない。食堂車を連結しても不経済になる。私鉄に食堂車は不要だった。
それでも、小田急は乗客サービスの向上といった目的から、ロマンスカーの車内で軽食などを提供するシートサービスを1949年にスタート。小田急のシートサービスは“走る喫茶室”と呼ばれて好評を博した。
長らく小田急の代名詞にもなっていた”走る喫茶室”は、いったん1995年に終了する。これに落胆したファンは少なくなかったが、2005年に新型ロマンスカー50000形VSEが登場するとシートサービスも復活した。