どんな国でもどんな時代でも、金持ちは特定の街に集まるものだ。東京では戦後ずっとそのブランドを維持してきたのが田園調布や成城だ。「家は田調です」「実家は成城なので」と言えば、誰でも「ああ、お金持ちなんだな」「お嬢様じゃん」とわかるフラグだった。
しかし、そのブランドに大きな変化が起きている。『週刊ポスト』(2021年1月4日発売号)では、「令和のネオ株長者150人の素顔」を特集している。1位はソフトバンクグループ会長の孫正義氏で保有額2.5兆円、2位はファーストリテイリング会長の柳井正氏で1.5兆円……といった目もくらむ金額が並んでいるが(ちなみに150位は231億円)、同特集では番外編として、2020年に東京商工リサーチが調査した「社長の住む街全国ランキング」も公開している。
2003年の同調査では、同率1位に並んだのが田園調布と成城で、3位が大泉学園町だった。いずれも閑静な住宅地で、東京にありながら敷地も建物も大きな「お屋敷」が並ぶ景観で知られる。ところが2020年調査では、そのトップ3がすべてトップ10から姿を消した。代わって上位に並んだのは、1位・赤坂、2位・西新宿、3位・六本木、4位・代々木、5位・南青山といった東京都心の町名だ。どちらかというと繁華街やビジネス街のイメージが強い場所が多く、社長が邸宅を構えるには不向きにも思える。このうち2003年調査でトップ10にランクインしていたのは南青山だけ(4位)だから、この17年間でブランド力がガラリと変わったことがわかる。
調査を担当した東京商工リサーチ情報本部の永木緋鶴氏は変化の理由をこう語る。
「赤坂の繁華街の裏手には高級タワーマンションが立ち並んでいます。社長のステータスが、閑静な住宅地の一戸建てから繁華街の高級タワマンに変わっているのでしょう。都心のタワマンはセキュリティを重視するところが多く、コンシェルジュも常駐している。社長の世代交代も進んで、そうした自宅を選ぶトップが増えているのだと思います。今回の調査では分譲か賃貸かは把握していませんが、そうした自宅は賃貸というケースも多いと思います。社長が賃貸に住むというのも時代の変化ですね」