新型コロナウイルス感染拡大に伴う自粛要請や旅行控え、その後は需要喚起を狙ったものの突如中止されたGo Toトラベル施策もあり、2020年は宿泊業界を揺るがす1年だった。その混乱を経験し、家業に本格復帰した神奈川県・湯河原の旅館「魚判」の若女将・西居杏奈さん(28)が、自身の経験を語った。
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新型コロナ感染者が急増した昨年3月頃から、この湯河原の街から観光客の方々の姿が消え、旅館にもお客様がいらっしゃらなくなる大変な時期を経験しました。ただ、おひとりでもお客様がいらっしゃるかもしれないと、ずっと営業を続けていました。
緊急事態宣言が解除されるまでは予約が1件も入らない日も多く、開店休業のような状態が続きましたが、「いつでもウェルカム」という思いを持ち続けていました。医療現場で奮闘する看護師さんや介護施設で働く方々が「開いていてよかった」と、体を休めにいらっしゃることもあり、開け続けていてよかったと思います。昨年7月の「Go Toトラベル」開始を機に、少しずつお客様も増えてきましたが、3密を避けるため、現在も予約を受けるのは全11室のうち7割程度までに抑えています。
私はこの旅館で生まれ、幼い頃から母が女将として働いている姿を見て育ち、接客の仕事が大好きになっていました。兄と妹がいますが、2人とも別のやりたい道に進み、若女将として働いてみたいと思っていた私は大学卒業後から実家で修業を始めました。約4年前に会社員の夫と結婚し、都内の自宅で現在3歳と1歳の子供を育てながら、実家へ通う形で働いています。
実はコロナ禍をきっかけに奮い立ち、育児中心の生活から若女将に本格復帰しました。忙しい時期は子供たちと一緒に泊まり込んでいます。4代目を継ぐかどうかも考えるようになりましたが、父は私がやりたいのなら継いでもいいけれど、無理をして継ぐ必要はない、というスタンスです。28年間生きてきて最もお客様が少なく、寂しかったのがコロナ禍に見舞われた昨年。今は若女将として精一杯頑張り、家業の旅館だけでなく、湯河原の温泉街全体をなんとか盛り上げていきたいと思っています。
■旅館 魚判
【住所】神奈川県足柄下郡 湯河原町宮上458
【料金】1人1泊/1万2150円~。(*旅館の宿泊料は1月の平日、2名1室利用・2食付の設定(消費税・入湯税込み))
撮影/佐藤敏和 取材・文/上田千春
※週刊ポスト2021年1月15・22日号