韓国兵役法の改正により、人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」メンバーの兵役時期の延期がほぼ確実となった。今回の改正は、大衆芸能分野の“特例”的措置としては初めてのこととあって、韓国だけでなく日本やアメリカ、イギリスなど世界で大きな注目を集めている。兵役延長を強く望む熱心なARMY(BTSファンの呼称)の思いが届いた形となったが、意外にもARMYの反応は二分しているという。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。
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現在、韓国の18才以上の健康な男性は原則28才までに兵役が課されるが、2020年12月22日、韓国国防部(部は日本の省に当たる)が公布した兵役法の一部改正案により、文化勲章・褒章の受勲者のうち、文化体育観光部長官が「国威発揚の功績がある」と推薦した“優秀者”は、満30才まで入隊を延期できるようになった。これにより、BTSの最年長メンバー・JIN(28才)の兵役は、30才まで延長される道が開かれた。6か月後の2021年6月から施行される。
兵役法の改正は、通常、海外に影響を与えるほどのニュースではないはずだが、12月1日に国会で改正案が議決されると、英BBCや米ニューヨークタイムズ、米CNN、英ロイターなど、世界の大手メディアが大々的に報じた。その理由はやはりBTSだ。BBCは、「JINはあと数日で28才になる。この改正はBTS最年長メンバーであるJINへの早めの誕生日プレゼントになった」と報じた。BTSをはじめK-POPスターの入隊は、一部のファンだけでなく韓国経済にも影響を与えるため国民の関心も大きく、特にBTSはアジアや米国など世界的な人気を誇るだけに大きく注目された。
BTSは、2020年に米ビルボードシングルチャートで3曲も1位を獲得、2021年のグラミー賞にもノミネートされ、まさに今人気絶頂のアイドルだ。また、2018年には韓流と韓国語の世界拡散の功労を認められ「花冠文化勲章」も受章している。これらの点を踏まえれば、今回の法改正でBTSは兵役延期の対象になる可能性が高く、最年長のJINは2022年まで入隊の心配は無いとみられる。いちアイドルが国政を動かしたことで、政治家や韓国メディアは今回の法改正を「BTS法」と呼んだ。
兵役は、大まかに言うと身体検査結果や学歴などに応じて、「現役兵」、「社会服務要員(行政業務支援)」、「芸術体育要員」、「専門研究・産業機能要員」、「特殊兵」、「士官候補生」などに分かれる。2020年6月2日以降に入隊した陸軍現役兵は、5週間の基本軍事訓練含め18か月、社会服務要員は21か月、専門研究要員は3年など、服務期間は配属先ごとに異なる。さまざまな分野の配属先があり、現役兵にならなくても兵役義務を果たせるが、20代のうちの1年半以上の自由が無くなることに変わりはないため、とてもつらい義務であることは間違いない。
2018年5月までは、大学院に在籍していれば30才まで入隊を延期できた。K-POPアイドルや俳優らは少しでも長く芸能活動を続けるため、大学院に進学して学業を理由に入隊を延期してきたが、2018年の法改正で28才以上の入隊延期が厳格に制限されるようになり、よほどのことがない限り28才までに入隊しなければならなくなった。そのため、撮影中の俳優が突然招集されドラマが予定より早く打ち切られたり、ミュージカルの主演俳優が予告なく入れ替わったりと、度々混乱が生じてきた。
芸術家やスポーツ選手らに対する特例はあるが、これにも厳しい条件がある。国際コンクールで2位以上に入賞する、オリンピックで銅メダル以上を獲得する、アジア競技大会で金メダルを獲得するなどだ。この条件をクリアできれば、4週間の基礎軍事訓練(配属先ごとに異なる)の後、34か月間自身の特技分野で従事する、つまり、4週間訓練を受けるだけで自分の生活に戻れるのだ。ただし、34か月間(544時間)は青少年向けの講習を行ったり、公益キャンペーンに参加するなど社会奉仕活動をしなければならない。
兵役法を巡っては、2000年代以降の韓流ブームにより、「芸能人も国威発揚に貢献したのに兵役特例の対象にならないのはおかしい」という世論の声が噴出し、長年議論が続いていた。今回の法改定は、そうした声が少なからず反映された大きな制度緩和と言えるだろう。だが、適用のハードルが高すぎて、「BTSメンバー以外の芸能人に延期できる人がいるのか」と疑問視する声もある。