人気が高く品薄になっている商品を大量購入して売る「転売ヤー」は、最近ではすっかり嫌われ者だ。忌み嫌われているとはいえ、チケットなど特定の品目を除いて転売そのものは違法にはならない。特別な設備がなくとも個人で始められるため、ある人たちにとっては「転売ヤー」がセーフティネットになっているケースもある。ライターの森鷹久氏が、日本の正月を「転売ヤー」として過ごさざるをえなくなった、在日ベトナム人の胸の内を聞いた。
* * *
静かなお正月を──。
旅行も、遊びに出かけることも「自粛」を求められ、かつてないほどに「人出」が見られなかった今年の正月。大多数の日本人は自宅に篭り、テレビなどを見て「静かに」正月を過ごしたようである。しかし、静かに過ごしていては生きていけない、という人々がいた。近ごろ何かと話題になることが増えている「在日ベトナム人」達である。
「ベトナム人には今、日本人から厳しい目が向けられています。もちろん、悪いことをする人はいますが真面目な人たちもいる。だから、悪いことをしなくて済むよう、余裕があったり、仕事がある私たちが、生活が大変なベトナム人を助けなければいけません」
埼玉県内でベトナム料理店を営むファムさん(40代)は十数年前に来日し、日本人の妻と結婚。県内だけでなく東京や群馬のベトナム人コミュニティにも顔が通じており「頼れる兄貴」と慕ってくれる同胞もいる。そんな彼が今取り組んでいるのは、生活に困った同胞達の救済だ。
昨年、技能実習生として来日するも、コロナの影響などで仕事が激減し、生活できなくなったという複数のベトナム人が、農家から豚などの家畜を盗み出し、無許可で捌いた疑いで逮捕された。農作物を盗み転売したベトナム人の存在も確認されており、その事実が日本国内のニュースなどで取り上げられると、日本人のベトナム人に対する感情が悪化。筆者も当時、犯行に加担したグループに近いベトナム人に取材をしたが、聞こえてきたのは「生きていかれない」とか「人を傷つけない方法だった」など、その弁解も一方的に断罪できないような悲痛なものであった。こうした背景が、それまで真面目に働き、過ごしてきたベトナム人にも悪影響を及ぼした。
「ベトナム人は悪いことをするかもしれないと、真面目な人たちもアルバイトを減らされたり、辞めさせられたりしたんです。ひどいと思いますが、日本人の気持ちもわからなくはない」(ファムさん)